中小企業向けクラウドERP「SystemEver」を主力製品とするEverジャパンが日本市場での成長に向けた投資を加速している。同社は韓国の有力ERPベンダーである永林院ソフトラボの日本法人で、2017年設立。永林院ソフトラボの權寧凡代表取締役に日本市場での成長戦略と同社のグローバルでのビジネスの現状を聞いた。(取材・文/本多和幸)
永林院ソフトラボ 權寧凡代表取締役CEO
韓国市場でも「2025年問題」
――まずは永林院のビジネスの現状についてお聞かせください。
当社の製品は、大きく分けてオンプレミスの大規模・中堅企業向けERPパッケージと中小企業向けクラウドERP「SystemEver」の二種類があるのですが、現状は本国・韓国でオンプレミスの大規模・中堅企業向けERPパッケージの成長が非常に加速しているのが経営的にはポジティブな要素ですね。
――大規模・中堅企業向けERPパッケージの成長要因は何でしょうか。
日本でも同様の状況がありますが、SAP ERPのサポート期間が2025年に終了する、いわゆる「2025年問題」は韓国市場でもERP刷新需要を喚起しています。当社ERPの新規ユーザー獲得の追い風にもなっているということです。
韓国国内では、経営がうまくいっている企業と課題が大きい企業とに二極化してきている傾向があって、経営がうまくいっている企業は適切なビジネスアプリケーションを適切に使っているとみられています。ERPブームに乗って流行りのERPを導入したものの、自分たちの業務とフィットしなかったというケースもかなりあったのです。
永林院のERPユーザーには経営がうまくいっている企業が多いです。ERPの本質的な価値にフォーカスして、自社にとって“正しい”ERPに乗り換えようという認識がERP市場全体に広がっていることは、当社にとっては非常に嬉しいことですね。
1億円ほどかけてカスタマイズしたERPを捨てて、当社製品に乗り換えるなどの事例も出てきています。TCOの大きな削減効果はもちろん、本稼働までの期間の短さや、その後の運用もスムーズであることなどに驚かれることが多いです。日本企業の韓国法人でも、従来のERPを当社ERPに置き換える動きはかなり増えています。
――新機能の開発などはどのような状況ですか。
経営分析という機能をリリースしました。文字通り、経営上の課題に対してのサジェストをしてくれる経営層向けの機能です。何か問題が発生したときに、例えば会社の体制や組織の問題なのか、人材に起因しているのかなどを解析したりできるほか、キャッシュフローの状況を見て、売掛金の回収を早めたほうがいいとアドバイスしてくれるような機能もあります。
日本はクラウドERPで勝負
――日本市場におけるビジネスの状況についてはどう評価されますか? 17年に日本法人を設立してから2年が経過しましたが……。
日本ではクラウドERPのSystemEverを主力として、これまであまりERPのユーザーとは考えられていなかった中小企業を対象に顧客基盤の拡大に努めてきました。韓国では製造業のユーザー企業が多いのですが、日本でも、中小規模の製造業でクラウドERPが広く使われていく兆しは見えているという手ごたえがあります。
――日本ではこれまでにどれくらいのユーザーを獲得したのでしょうか。
成約は3件ですが、サービス業向けのパッケージも新たにリリースし、このファーストユーザーとも契約が進んでいますので、間もなくユーザー数は累計4社になる見込みです。SystemEverは基本的にはカスタマイズせず、スピーディーに本稼働までもっていけることが強みですが、ご存じの通り、ERPの商談はなかなか足が長いビジネスです。商談自体は飛躍的に増えていますので、今年から来年にかけて大きく成長できると考えています。
ただ、韓国人はせっかちな人間が多いのですが(笑)、例に漏れず私も日本のビジネスはもっと早く成長させられたのではないかと実は思っているところがあります。それでも、韓国生まれの製品をカスタマイズなしで使ってもらうビジネスができてきていることは大きな前進だとは思っています。
Everジャパンは日本でERPビジネスの経験が豊富なスタッフがけん引しています。彼らも共通して、Everジャパンのビジネスはうまくいっていると見ているようです。多少時間がかかっているだけで、リファレンスになるような事例も出て来たし、コンサルティングサービスをうまくやってくれるパートナーも充実してきました。
――日本市場にはどのような投資をしていく方針でしょうか。
日本市場はクラウドERPで勝負をかけますので、日本市場のニーズを汲んだSystemEverの機能拡張には取り組んでいきますし、導入事例の発信や、パートナーのビジネスを支援すべく、オンラインでのデモ環境や日本向けのEラーニングコンテンツなどの整備も積極的にやっていきます。
――グローバルの市場向けにはどんなことを考えておられますか。
インドネシアやベトナム市場でも案件が増えており、これらの地域での新規顧客開拓に注力していきます。まずは手軽に使ってもらえるような業務系のモバイルアプリをフリーミアムモデルで提供してアップセルしていくような戦略も描いています。