NECは5月12日、2025年度までを期間とし、森田隆之社長兼CEOが指揮を執る中で初となる「2025中期経営計画」を発表した。同年度の目標売上高を3兆5000億円に設定し、国内のIT事業については、これまでの個別最適から全体最適に向けて変革を進める考えを示した。(齋藤秀平)
強みの技術を顧客価値に転換
「成長」と「ベース」で成長を目指す
森田社長は新中計の発表に当たり、同社の成長モデルを示した。まず自社の強みについて「効率のよいR&Dと、日本で長年にわたって社会のインフラネットワーク基盤を支えてきたクオリティの高い実装力」と説明し、これらを価値に転換するために、自社技術の共通基盤化やM&Aなどの外部補完を進め、「グローバルと日本で高い収益とキャッシュ創出力を実現する」と述べた。
森田隆之社長
その上で、「成長事業」と「ベース事業」の両輪で収益成長の実現を目指す方針を紹介。「デジタルガバメント/デジタルファイナンス」と「グローバル5G」「コアDX」「次の柱となる成長事業」の四つを成長事業に設定し、それ以外をベース事業に位置づけたとした。
成長事業とベース事業の考え方については「成長事業は、競争優位獲得強化のために優先的に資源配分し、増収増益をけん引する。ベース事業は、慎重な事業環境を前提とした上で収益性の改善に軸足を置く」と説明した。
同社は、新中計の経営目標として、調整後営業利益3000億円(20年度実績は1782億円)、調整後純利益1850億円(同1654億円)、EBITDA(利払い前・税引前・償却前利益)4500億円(同2958億円)も掲げている。
森田社長は「ベース事業は20年度の水準から確実な増加を狙い、その上でデジタルガバメント/デジタルファイナンス、グローバル5G、コアDXで大きく調整後営業利益を伸ばし、EBITDA4500億円を実現したい」と語った。
国内IT事業はコアDX事業をテコに
営業利益率13%を目指す
同社は、成長事業の一つとした「コアDX」を国内IT事業の変革のテコとし、これまでの顧客ごとの個別最適を全体最適にシフトさせる考えで、20年度の営業利益率8%を13%に改善させることを目標としている。
森田社長は「マネジメントとしては、営業利益でグループ分けし、低収益事業は個別の改善計画を立ててフォローする。中・高収益事業は業界トップの収益性を目指す」とし、コアDXの具体的な取り組みとしては「コンサルからデリバリーまで一貫したアプローチ」や「ICT共通基盤技術とオファリング」「ハイブリッドIT」に注力するとした。
森田社長の説明によると、コンサルからデリバリーまで一貫したアプローチでは、グループ会社のアビームコンサルティングとともに、提供価値の拡大を図る。コンサル・DX人材の拡充や、顧客のCxOやエンドユーザ部門へのアプローチも進める。
ICT共通基盤技術とオファリングでは、社会や企業のDXに有効な自社技術をプラットフォーム化し、原価低減を目指す。提供ソリューションの標準化も進め、価値提供型のプライシングと合わせて収益性の向上を狙う。
ハイブリッドITでは、アマゾンウェブサービスやマイクロソフトといった大手クラウド事業者との協業やNECクラウドを組み合わたマルチクラウド戦略を強化し、顧客のニーズに合わせたIT環境を提供する。
一方、森田社長は、成長事業の「デジタルガバメント/デジタルファイナンス」について、グローバルでトップクラスの業界・業種に特化したSaaSベンダーを目指すと宣言。「グローバル5G」については、グローバルのオープンRAN市場でのリーディングベンダーのポジション獲得に加え、将来的にソフトウェアサービス事業にシフトして高収益事業に育てることを目標にしていると紹介した。
「次の柱となる成長事業」については、「現在の主流技術を破壊し得る」とする量子暗号やレーザー通信、個人情報保護型のデータ分析などをベースとし、これまでの新事業開発のノウハウや手法を使って事業化を進めるとした。
20年度は2期連続で過去最高益
成長と収益性向上に向け「布石打てた」
森田社長は、新中計の発表に先立ち、20年度通期(20年4月~21年3月)の決算を発表した。売上高は、前年度比3.3%減の2兆9940億円だった。調整後純利益の1654億円は、前年度から542億円増えて2期連続で過去最高を更新した。
新型コロナウイルスの感染拡大による損益については、これまで見込んでいた500億円のマイナスから420億円のマイナスに縮小したと説明。5G基地局の出荷が本格化したほか、リモートワーク商材やGIGAスクール特需の拡大をはじめとするニューノーマル需要の獲得、資産売却などによって通期で200億円のプラスとなり、業績への「マイナス影響は抑制ができた」と述べた。
受注動向は、全体で同2%の増加となり、セグメント別ではGIGAスクール特需が寄与した社会基盤が同10%、5G基地局の出荷増が後押ししたネットワークサービスが同13%とそれぞれ伸長。コロナ禍の影響を最も受けた社会公共とエンタープライズは、前年度を上回ることはできなかったが、いずれも改善基調にある。
森田社長は「収益構造の改革と成長の実現、実行力の改革の3本柱が2020中計の骨子だった」とし、これまでの取り組みについて「事業ポートフォリオを見直し、継続的な成長ができる最低レベルの営業利益率6%を達成した。グローバルでの成長と、国内でのさらなる収益性向上を目指すための布石を打つことができた」と語った。