大手総合ITベンダーの2021年度(22年3月期)第1四半期決算が出そろった。各社とも利益の確保には万全を期し、おおむね順調なスタートを切ったように見える。一方で、新型コロナウイルス感染症の世界的流行から1年以上が経過した現在も、中堅中小企業や地方企業のIT投資は回復していないという課題も浮かび上がる。(本多和幸)
NEC
新中計は順調な滑り出し
今年4月に森田隆之社長兼CEOが就任したNECは、森田体制の船出とともに2025年度を最終年度とする「2025中期経営計画」を発表した。新体制、そして新中計がスタートして以降最初の決算となった21年度第1四半期は、順調な滑り出しとなった。売上高は6519億円(前年同期比10.9%増)、営業損益11億円(114億円増)、調整後営業損益は105億円(163億円増)といずれも黒字に転じた。国内IT市場の需要回復などの動きを着実に捉えたほか、昨年12月に買収を完了したスイスの金融ソフトウェア大手Avaloqが新たに連結対象となったこともあり、注力領域であるデジタルガバメント/デジタルファイナンスを中心にグローバルビジネスも増収に寄与した。
具体的には、医療、公共、流通、金融向け案件や5G基地局の拡大などが増収の大きな要因になっており、受注も同様に伸びているという。森田社長は「第1四半期で黒字を出せる体質になってきた。実績は堅調で、進捗は順調」と言い切り、21年度の通期業績予想である売上高3兆円、営業利益1200億円、調整後営業利益1550億円に向けて、順調なステップを踏んでいることを強調する。
一方で、「中堅中小企業や地方企業のIT投資はまだ回復途上にある」と課題も口にする。民需についても産業ごとの売り上げはまだら模様であり、製造業向けは20年度並みの水準にとどまった。「マクロ環境はまだまだ不透明なので、約束した数字をしっかりやっていく」と気を引き締める。
NECは第1四半期の決算に合わせて、新中計の実行も順調に進みつつあることをアピールした。成長事業に位置づけた「グローバル5G」では、Open RANを推進する欧州メガキャリア向け事業で具体的な実績が出てきている。今年6月には英ボーダフォンや独ドイツテレコムの5G基地局パートナーに選定されたことを発表したが、現在も「欧米、アジアで複数の案件が進行中」だという。国内ユーザーのDX支援に取り組む「コアDX」でも、AWSやマイクロソフトとグローバルレベルでの戦略的協業を進め、体制を着実に整えていることをアピールした。
富士通
採算性の改善で成果
ライバルである富士通の21年度第1四半期決算は、売上高8019億円(0.1%減)、営業利益337億円(114億円増)で着地した。売り上げはほぼ前年並みだが、全社的に採算性の改善を強く推し進めた成果が出た。磯部武司・取締役執行役員専務CFOは「(社内のDX投資など)成長のために必要な投資は実行しつつも利益が大きく伸びた」としている。金融向けシステム案件や国内外の5G基地局拡大などが第1四半期の業績を支えたのはNECと共通しているが、PCなどのセグメント「ユビキタスソリューション」が前年度のテレワーク需要の反動により減収減益となった。
受注動向については「金融市場ではDXに向けた積極投資が見られ、大口商談をいくつか獲得できた」(磯部専務CFO)と強調する一方で、流通や小売り向けは「回復感が弱く低調」としており、NECとの違いが見える。また、富士通Japanが手掛ける中堅民需などの領域は依然厳しい状況が続いており、「最もコロナの影響を直接的に受けている印象」だという。大企業以外は事業環境が厳しいままで、積極的なIT投資に踏み出す状況にないことが、ここでも浮かび上がる。
磯部専務CFOは「計画時の想定通りではあるが、この第1四半期は力強い回復という感じではない」と総括するものの、通期の業績予想である売上高3兆6300億円、営業利益2750億円は変更しない。今年度の計画では、大口商談が下期、特に第4四半期に偏重しているという事情もある。「具体的な商談は出てきている。先行きの景況に不透明感も強く残っているが、パイプラインをしっかりフォローしてビジネスの拡大につなげていく」方針を示している。
日立
ITセグメントは過去最高益
21年度第1四半期の連結合計売上高が2兆3674億円(48.5%増)、調整後営業利益が1304億円(721億円増)となった日立製作所は、ITセグメントが業績回復をけん引した。ITセグメント単独で見ると、売上高は4428億円(3%増)、調整後営業利益は過去最高益の436億円(53億円増)となった。国内外でのLumada事業の伸長が大きな要因だ。
日立は7月、米サンノゼに本拠を置くデジタルエンジニアリングサービス企業であるグローバルロジックの買収を完了した。Lumadaのグローバル展開を加速させるべく約1兆円を投じた大型買収だ。日立全体としては、北米、欧州、中国を中心に新型コロナ禍の影響を脱して受注が増えており、グローバルロジックとのシナジーを発揮する環境は整いつつあると見ている。この買収により、通期で売上高900億円増、調整後営業利益180億円増を見込んでおり、Lumada事業のさらなる急成長につなげたい考えだ。