豆蔵デジタルホールディングス(豆蔵デジタルHD)は、今年秋をめどに板金加工業向けの情報基盤サービスを始める。見積もりの作成支援や作業スケジュール管理などが柱で、すでに複数の板金加工会社と実証実験を進めている。板金加工会社は全国に数十万社あると豆蔵デジタルHDではみており、市場規模も十分にあることから情報基盤サービスはSaaSで提供する。板金加工に使う溶接ロボットの制御や、仕掛かり品の管理、搬送を効率化する個別の案件にも応えていく。「板金加工業界に深く入り込んでいく」(中原徹也社長)ことで同分野での自社の競争優位性を高める。
(安藤章司)
中原徹也 社長
板金加工業は中小作業所が多くを占め、見積もりや作業スケジュールを手作業で行っているケースが多い。豆蔵デジタルHDではCADの設計データから見積額を算出したり、作業スケジュールや作業所内の部材の搬送といった工程を自動的に割り出すSaaSの開発に取り組んでいる。中原社長は「見積もりの依頼がきたら、類似性の高い過去のCADデータを検索し、精度の高い見積もりを素早く導き出せる」ようにするなどして、板金加工業の生産性の向上に役立てるプラットフォームづくりを目指す。
豆蔵デジタルHDグループは、昨年1月に板金加工業向けのCADソフト開発を手掛けるエフエーサービスからレーザー溶接事業を譲渡してもらうことで板金加工関連の知見を手に入れている。傘下の事業会社である豆蔵が持つ産業用ロボット向けソフト開発技術と、同じく傘下の機械・電気電子に長けたコーワメックスの知見を組み合わせることで、板金加工の工場自動化の事業拡大に取り組む。
今年秋をめどにサービスを始める予定の板金加工業向けの情報基盤サービスは、豆蔵デジタルHDグループが取り組む同業界向けビジネスの重要な付加価値の一つとして位置づけている。
豆蔵デジタルHDが食品加工向けに研究開発を進めるロボットの一例
また、産業用ロボットを切り口として食品加工業への進出にも力を入れる。食品は柔らかく、形が一定でない場合が多いためロボットが進出しにくい分野だとされている。例えば、弁当箱にえびフライを入れるケースでは、えびの形が微妙に違ったり、柔らかいためロボットの手でつかむと簡単に形が崩れるなどの課題が多かった。そこで、豆蔵デジタルHDが強みとするロボット制御技術を応用。中原社長は「これまでロボットの活用が難しいとされてきた食品加工業への展開を進めていく」考えを示した。
食品加工は、自動車産業などと比べて単価が低くコスト面が高額な産業用ロボットを使いにくいことが、自動化が進まない背景にある。豆蔵デジタルHDでは汎用性やオープン性が高く、低コストなロボットを独自に設計するとともに、人とロボットが混在するような作業場でも人の安全を確保できるよう樹脂メーカーの三井化学や部品メーカーの日本電産シンポとの共同研究を進めている。
豆蔵デジタルHDは、昨年4月1日付で豆蔵とコーワメックス、Dynamics 365などERP構築に強みを持つエヌティ・ソリューションズが取りまとめるかたちで立ち上がった。新体制での初年度は、板金加工や食品加工をはじめとする業種に焦点を当てたビジネスを重点的に伸ばした。
既存の製造業向けビジネスもコロナ禍期間の初期の落ち込みから回復しつつあることから、2022年3月期は受注ベースで「コロナ禍以前の19年度を上回る勢いで着地する見込み」(中原社長)と手応えを感じている。