豆蔵デジタルホールディングスは、豆蔵グループ中核事業会社の豆蔵とハードウェア設計を強みとするコーワメックス、ERP導入のエヌティ・ソリューションズの三つの事業会社を束ねる中間持ち株会社として4月1日付で事業をスタート。ハードとソフトの両方に強みを持ち、ハードと密接にかかわる自動車や産業用ロボットなどの分野を重点的に開拓していく。持ち前のプロセス変革に重点を置くコンサルティング能力によって、ユーザー企業のビジネス変革の支援にも力を入れる。ソフトやデータを起点としたハードウェア製品の価値向上、よりよい顧客体験の実現に注力することで、競争力を高める方針だ。
自動車やロボットで強みを生かす
――中間持ち株会社の豆蔵デジタルホールディングスを軸とするグループ再編の狙いはなんですか。
豆蔵グループの主要事業会社は10社あり、うち技術的に親和性の高い事業会社を中間持ち株会社の下にまとめました。私はグループ中核事業会社の豆蔵と、機械設計などを手がけるコーワメックス、SAPやDynamics 365といったERP導入を展開するエヌティ・ソリューションズの3社を束ねる豆蔵デジタルホールディングスの社長という立場です。
豆蔵デジタルHDグループの特色は、まずもってハードウェアの設計ができるコーワメックスを傘下に持っていることです。名古屋に本社を置き、輸送機械をはじめとする製造業の集積度が高い愛知県刈谷市、静岡県浜松市に事業所を展開しています。コーワメックスの従業員数は約520人と大所帯で、従業員数約180人の豆蔵、約100人のエヌティ・ソリューションズよりも規模が大きい。従って、このグループの特色の一つに、ハードウェアと密接にかかわる分野に強いことが挙げられます。
――ハード設計や組み込みソフト開発の分野に強いSIerという方向付けでしょうか。
昔ながらの組み込みソフト分野のみならず、産業用ロボットや自動車の分野でしっかりとした提案ができる企業集団であることを志していきます。古いタイプの組み込みソフト開発は、ハードメーカーが設計をして、仕様が固まったのちにソフト開発の部分だけを請け負うことが多かった。この方式ですとIT業界特有の多重下請け構造や、付加価値の伸びしろが限られている労働集約型のビジネスモデルから脱却しにくい側面がありました。当社は自ら製品やサービスを設計し、顧客企業とともに新しい価値を創り出す知識集約型のビジネスモデルを目指します。
――どのようにして価値創造をするお考えですか。
例えば、産業用ロボットからデータを取得して分析にかけ、どうすれば生産効率がより高まるのかの答えを導き出したり、自動運転やADAS(先進運転支援システム)では自動車から得たデータを起点に分析することで、より精度が高く、安全なクルマの開発につなげられます。
これを実現するには機械、電気電子、ソフトウェア、AIの少なくとも四つの技術分野に精通している必要があり、前者の二つはコーワメックス、後者の二つは豆蔵が強い。両社が豆蔵デジタルHDの傘下で密接に連携しやすくなれば、従来の組み込みソフト開発では実現できなかった新しい価値創造が可能になります。
顧客を“ITで主導”できる会社になる
――豆蔵グループでは自ら産業用ロボット分野の研究開発にも乗り出していますね。
産業用ロボットは、ハードの部分よりもソフトやデータ分析、機械学習の部分のほうが価値の比率が高まると見て、2010年代から研究を始めました。直近では板金加工向けのレーザー溶接ロボットと、AIの深層学習を連携させ、ロボットの稼働効率を高めるサービス開発に力を入れています。
板金加工の会社はどこの街にもある身近な存在で、それだけに比較的小規模な企業が多い。溶接ロボットを導入していてもデータ分析やAI活用までには至っていないケースが垣間見れます。ここに豆蔵デジタルHDグループの持つAI・データ分析の知見を応用すれば、生産効率を大幅に高められる。
具体的には、産業用ロボットをデータ起点で分析し、その成果をロボットの設計や運用に還元することで生産性を高め、顧客企業の売り上げや利益の増大に役立つデータ分析プラットフォームサービスの開発を検討しています。まずは、中堅・中小の板金加工向けのサービスを早ければ今年度中にも立ち上げたい。
――特定業界向けのサービス・プラットフォームは、IoTやAIの文脈で需要がありそうです。
産業用ロボットや自動車は、IoTそのものです。日々大量のデータが生まれていますが、今はまだ十分に活用できていません。これからの自動車は外部のネットワークがつながるのが当たり前となり、運転の自動化が進展し、シェアリングサービス、電動化比率も高まる。車の内部はコーワメックスが強い領域、車が外部のAIやデータ分析のサービスと連携する部分は豆蔵の得意分野です。自動車関連メーカーも試行錯誤している段階ですので、当社から積極的に新しい価値創造の提案をしていきます。顧客に“寄り添うSIer”ではなく、顧客を“ITで主導”できる会社になることが私の目標とするところです。
――ERPを主力とするエヌティ・ソリューションズは、コーワメックスとは得意分野が大きく違いますね。
豆蔵デジタルHDグループのもう一つの柱に、企業のビジネス変革があり、エヌティ・ソリューションズはSAPやDynamics 365といったERPを効果的に活用するコンサルティングサービスに強みを持っています。コーワメックスの話の流れで製造業の分野の話が長くなってしまいましたが、当社は金融や商社など非製造業の顧客も多く抱えています。ERPという幅広い業種で使える業務アプリケーションを軸に、収益の柱を育てていきます。
人材、技術、プロセスを重視
――中原社長は、最先端の技術や人材開発に強いこだわりをもっていると聞いています。「顧客を“ITで主導”できる会社になる」という発想は、いつごろ生まれたものですか。
振り返れば、私が豆蔵に入社して数年後にリーマン・ショックに見舞われ、受託開発のプロジェクトが相次いで凍結、縮小されました。情報サービス業界全体の受注環境が急速に悪化したときです。当社も例外ではなく、数少ない仕事を得るために奔走し、結果的に大手リース会社から基幹業務システム刷新の大型受注を獲得してリーマン・ショックの難局を乗り切ることができました。
当社への発注を決断する決定打となったのが、私たちの技術に基づく提案力でした。ライバル会社が昔ながらの厳格な要件定義を行い、仕様書を固めてから開発するウォーターフォール方式で提案したのに対して、当社はアジャイル方式での開発を提案しました。当時、まだ目新しかったアジャイル開発の技術を自社に取り入れたいという顧客側の思惑もあり、顧客の情報システム子会社に「技術移転をする」条件で当社への発注を決めてくださいました。アジャイル開発は顧客といっしょになって開発し続けるプロセスがとても重要ですので、当社としても、技術移転は今後の顧客との中長期的なパートナーシップを考えると、むしろ望むところでした。
――アジャイル開発は、ビジネス変革と相性がいい手法としての評価を確立しつつあります。そのユーザー企業は先見の明がありますね。
当社の価値を突き詰めて考えると、人材と技術、そしてプロセスの三つです。とくにプロセスは大切で、顧客企業のITやビジネス変革に対する成熟度合いや、顧客独自の組織、企業風土を踏まえた上で、最適なプロセスを設計することがプロジェクトの成否を大きく左右します。
従って、顧客企業から「○○をつくってくれ」と言われても、ただ「はい、分かりました」とはならず、必ずそれが最適なプロセスで行われるのかどうかを検証します。もし、もっといい方法があるならば「これこれこうだから、こういうプロセスを踏みませんか」と逆提案します。
「ベンダーの癖に生意気な」と反感を買い、そのときは発注してもらえないかもしれません。しかし、当社の提案が合理的だったと後になって感じてくれれば、顧客は必ずまた当社に提案依頼の声をかけてくれますし、実際、そういうケースが過去に多くありました。豆蔵デジタルHDグループとしての新体制となってからも、尖った人材、技術、理に適ったプロセスの提案力でビジネスを伸ばしていきます。
Favorite Goods
TUMIの名刺入れ。執行役員に就任した2007年に購入。その直後に発生したリーマン・ショックで受注環境が一気に厳しくなる中、大型受注を獲得し、事業を無事軌道に戻す。「苦楽をともにしてきた思い出のグッズ」だと話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
人と技術、プロセスが揃って変革が上手くいく
豆蔵デジタルHDグループの特色は、ハードウェア設計とソフトウェア設計の両方を強みとし、「顧客のビジネス変革に向けた具体的なプロセスを提案できる能力があることだ」と、中原徹也社長は話す。いくら人材や技術があっても、プロセスに疎かったら変革は遠のいてしまう。「ただ言われたものをつくるのではなく、合理的な価値創造のプロセスを顧客に提案する能力こそ当社グループの存在価値」だと強調する。
例えば、自動車や産業用ロボットをIoTの端末と位置づけ、そこから発生するあらゆるデータを収集して分析。自動車であればより安全性が高まる先進技術の開発につなげ、産業用ロボットではアイドル時間を短縮し、生産性を高める変革プロセスを実践していく。
ハードウェアと密接にかかわる分野において、「ソフトウェア起点、データ起点でのプロセス変革が一段と重要になる」と、中原社長は見る。データ分析によって得られた知見によってソフトを改良し、「エンドユーザーのより良い顧客体験を提供するプロセス変革に顧客企業といっしょになって取り組む」ことで、豆蔵デジタルHDの一層の価値向上につなげていく考えだ。
プロフィール
中原 徹也
(なかはら てつや)
1965年、福岡県生まれ。90年、立教大学理学部卒業。同年、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。96年、日本オラクル入社。2002年、ウルシステムズ入社。04年、豆蔵入社。07年、執行役員。09年、取締役。14年、代表取締役社長(現任)。21年4月1日、豆蔵デジタルホールディングス代表取締役社長に就任。
会社紹介
豆蔵デジタルホールディングスは、豆蔵など事業会社3社を束ねる中間持ち株会社。事業会社3社の従業員の合計は約800人。同じく中間持ち株会社で業務系アプリケーションの領域を主軸とするオープンストリームホールディングスと横並びの立ち位置。持ち株会社の豆蔵K2TOPホールディングスに属する主要事業会社10社のうち半数が豆蔵デジタルHD、オープンストリームHDに集約された。