企業の経営資源である「人・モノ・カネ・情報」のうち、最も大切なものは「人」である。IT業界においても例外でなく人材が最も大切な経営資源となる。そこで、この連載では人に関して焦点をあて、今後のIT業界に必要な人材やあるべき姿について述べる。
昨今、多種多様なITシステムが登場しており、今後もITシステム開発がさまざまな分野で必要とされることは間違いない。そのような状況の中、ITシステム開発において最も大切なことは、どのように人材(ITエンジニア)を確保するかである。
人材確保の方法は、業務委託又は自社開発の2パターンに大別される。業務委託の場合、社外の人材を活用した開発となり、メリットとして「費用の変動費化」が可能であること、デメリットとして「システム化対象の業務に不慣れ」「仕様変更の対応が契約に縛られる」などがある。一方、自社開発の場合、社内の人材を活用した開発となり、メリットとして「システム化対象の業務に詳しい」「コミュニケーションが取りやすい」「仕様変更の融通がきく」こと、デメリットが「費用が固定費化する」などとなる。業務委託と自社開発のメリットとデメリットは表裏の関係ということだ。
業務委託・自社開発体制のイメージ
ITエンジニアは常に人手不足であり、情報処理推進機構の「IT人材白書2020」によると約90%の企業が人材の質的な不足感を持っているという。ITシステム開発現場から、絶えず増員の要望が管理職側に上がってきている状態ということだ。
業務委託で増員したケースを考えると、増員されたITエンジニアにシステム化対象の業務を理解してもらうための教育コストが必要であり、教育に関する人材も追加で必要となる。一方、自社開発の場合、教育コストがかかることは少ないが、そもそも社内に「人材がいない」というケースが多く見受けられる。自社内でITエンジニアを確保することは「費用が固定費化する」ため、敬遠される場合があるが、現在の人手不足の状況を考えると直近で業務がなくなることは考えにくく、自社で確保することが望ましい。
また、ITシステムは完成後、常にバージョンアップが繰り返されることが必須であるため、開発したITシステムの中身が人にとって理解しやすい内容であることが理想。しかし、実際には開発したITエンジニアに依存した内容となる。業務委託の場合は委託先に対しての依存度が高くなり契約価格が高騰する原因ともなるため、このような状態になることは可能な限り回避したい。
ITエンジニアは今後も不足が見込まれ、他社への依存度を低くするためにも自社内で確保するほうが優位であるといえそうだ。しかし、ITエンジニアを自社内で確保することは難しいため、基本は自社開発を考えつつも、不足分は業務委託を扱う方式を採用することが現実的である。開発工程の全てに対して実務担当まで自社メンバーが必ず携わり不足分を業務委託でカバーするということだ。
また、100%業務委託や自社開発の偏った方針をとっていた場合、ITエンジニア不足に柔軟に対応することが困難になる側面もあるため持続可能な経営を続けるためにはバランスが大事である。
■執筆者プロフィール

阿部伸治(アベ シンジ)
阿部伸治中小企業診断士事務所 代表 ITコーディネータ
1974年10月大阪生まれ。IT系専門学校卒業後、IT会社に就職。客先常駐でのソフトウェア開発で実務経験を積み、鉄道関連の製造メーカに転職後、気象防災システムの開発責任者・メンバーとしてシステム開発の全工程に携わる。21年2月からITコンサルタントとして独立。