「新型コロナ」「SDGs」「DX」の3要素で社会が大きく変わろうとしている。企業のみならず、生活者にとっても「人生100年時代」として、何か新しいことを始めるきっかけとなってきている。特に、新型コロナ対策の影響によるリモートワークや副業・兼業などの拡大、ESGによる新たな連携によるエシカル商品企業の台頭は、ITの活用による大きな変化といえる。そんな中、IT化がなかなか進まず厳しい状況に陥っている中小企業が多い。そこで、この連載では中小企業がどのようなIT化を進めれば生き残ることができるかを解説していく。
「攻めのIT」がなかなか進まず
ここ数年、マイナンバーのポイントや税申告などの行政サービスがインターネットを通して登録できるようになったり、ワクチン接種証明書、遠隔治療やキャッシュレス決済、タクシーアプリなど、スマートフォンのアプリで情報のやり取りが行われたりしている。今や、スマートフォンは高齢者を含めた幅広い年代まで急激なITリテラシーが求められており、職場だけでなく生活レベルまでの社会インフラとなりつつある。
一方、日本は効率化や自動化などのコスト削減や改善を中心とした「守りのIT」化が順調であるものの、革新や新技術などの「攻めのIT」がなかなか進んでいないのが実情だ。その理由はIT人材の不足といわれている。
中でも、製造業の現場職、サービス業の技術職が不足しており、地域事業の経営者や現場責任者は、トランスフォーメーションやモダナイゼーションの前に、現状の業務に携わっているベテランから次世代への知識継承を行う機会がどんどん減っていくことに焦りを覚えている。
変化に必要な他との協調
焦るばかりでなかなか知識継承が進まないのは、人材不足や攻めのITが苦手だからとはいえない。筆者は普段、ITコーディネータとしてIT経営を手伝っているとともにSDGs経営の推進も支援しているが、共通のパターンがあると実感している。
IT経営もSDGs経営も、対象は経営者や総務、製造責任者が多く、経営理念やビジョン、中長期計画の内容を最初に話を聞くケースが多い。その後、現場見学を踏まえて「何をどのように変えるか」「変えるためのロードマップやステップは?」などを社内で確認できるようにするのだが、多くの場合、この段階で問題が発生する。社内で他部門の話は知らない、時には対立構造になっているケースもあり、協調が難しくなっているからだ。
情報処理推進機構(IPA)によれば、米国では各部門の協調が8割程度できているのに対し、日本では4割ほどといった状況となっている。
経営者・IT部門・業務部門の協調
(出典:情報処理推進機構「DX白書2021」)
協調に必要な共通言語
問題は、協調に必要な社内の共通言語の認識にある。共通の認識のベースとなる中長期計画がなかったり、それらに基づいたキャリア形成やトレーニングがなかったりすることだ。地域の中小企業では、多くが補助金を獲得したり設備投資したりするために、外部のコンサルタントやITベンダーなどに依頼して、組織の共通認識である計画を作成している。計画策定の担当者が兼務であることが多く、「経営部門」の仕事よりも「生産」「営業」などの業務に時間が割かれているからだ。
また、生産・製造部門の暗黙的なプロダクト開発ノウハウもしくは営業部門のサプライチェーンにおける価値判断基準や人脈形成のプロセスノウハウが言語化されておらず、計画を策定するための調査が実施できないというケースも多い。さらに、中長期計画を外部にアウトソーシングした場合でも、補助金の獲得や設備投資レベルであれば全社的な取り組みにならず、効果も曖昧となってしまう。
中小企業における共通言語SDGsの役割
中小企業の多くは、OJTや徒弟制度などで長期雇用による時間をかけた暗黙的なノウハウや人脈の「のれんわけ」によって、自社内で通じる“共通言語”をつくっていた。そこで、おすすめするのは世界共通言語のSDGsを活用した協調する風潮をつくっていくことだ。今までQCサークル活動を行っていたチームを活用して、SDGsを勉強。次に、抽象的なゴールをもとに数字の入った行動の記述を行い、その行動とトレードオフになるゴールの関連性を意識しながら、現場で実際に行っている取り組みを明文化する。現場の取り組みからボトムアップで経営戦略や経営計画を策定していくのだ。これによって、中長期計画も共通言語として活用でき、組織横断もしくはサプライチェーンも含めた全体の業務・製造・営業プロセスのデジタル化や新価値創造を生むビジネスモデルのトランスフォーメーションに向けて準備が進むといえるだろう。
■執筆者プロフィール

村本睦子(ムラモト ムツコ)
ITコーディネータ
官公庁向けシステムエンジニア、まちづくり、6次化支援に携わる。現在、北陸先端科学技術大学院大学で博士後期課程の学生をしながら、顧客企業の新規事業やSDGs経営のコンサルティング、IT経営支援を行っている。