当社(コムデック)は三重県伊勢市でシステム開発やパソコン販売を行う社員数15人の中小企業。自社で社内の仕組みをアナログ(紙・リアル)からデジタル(データ・非対面)への改革など、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んだ結果、一時は離職率70%という事態を招いた。それでも諦めずデジタル化を進め、「いつでも、どこでも」働けるリモート対応が当たり前な会社に変容し、全国の中小企業に対してデジタル化の支援を行うことができるようになった。この連載では、当社がデジタル化によって変容した体験と、顧客へのデジタル化支援を行っている現場の知見から、地方の中小企業が「デジタル化に失敗しない」導入方法について解説する。
まずは、「デジタル化に失敗しない」ために地方中小企業においてデジタル化が成功しづらい独特の理由が存在することを紹介する。
一つめは、「アナログ・ネイティブな中高年比率が高すぎる」ということだ。地方中小企業には、学生時代に携帯電話もなく、社会人になって徹底したリアル志向の文化で育てられた対面や電話によるコミュニケーションが得意だがチャットやWeb会議を苦手とする「アナログ・ネイティブ」世代が社内の大多数を占めている会社が多い。
その世代の多くは、自らの存在価値を下げかねない業務のデジタル化に対して強い警戒感を持っており、積極的にデジタル化を推進することが滅多にない。実は、筆者も自社の案件管理をデジタル化に移行する際、「見づらい、使いにくい」と最後まで反対していた。デジタル化された働き方が、リアル志向で育った世代にとっては結構きついのは事実なのだ。
ホワイトボードから“Kintone”に変わった案件管理
二つめは「通勤が楽だから」。満員電車で長時間通勤することを「痛勤」と称する都市部と違い、地方都市では車通勤が基本であり、車中で音楽や動画を楽しみながら過ごす数十分の通勤時間を苦痛だという声を聞かない。
そのため在宅勤務を望む声は都市部に比べ圧倒的に少なく、コロナ騒ぎから2年以上経過した現在でも出社を前提とした仕事の組み立てが続いている。
在宅やリモート勤務が進んでいないことが、クラウドサービス導入による「いつでも、どこでも利用できる」メリットが効きにくい環境を生みデジタル化が進めづらくなっていることにつながっているのだ。
車保有率100%、愛車は自室の延長
三つめは、「身近なDXアドバイザーが不在」ということだ。これまで中小企業のIT化には、コピー機やパソコンなどOA機器販売を得意とする地元の事務機販社が大きな役割を果たしてきた。クラウドサービスの導入は納品ではなく定着がゴールとなるため、「モノ売り」ではなく「コト売り」を得意とする相談相手が必要となってくるが、まだまだクラウドサービスの導入、定着を得意とする販社が少なく、身近に相談できる相手がいないことも地方中小企業でデジタル化が進まない理由になっている。
ほかにも親子対立やベテラン社員の抵抗など、まだまだ理由は存在するが、雇用が固定的な地方中小企業おいて、デジタル化が進みづらい複数の理由を理解しようとせずにデジタル化を押し進めると、業務のキーマンとなるベテラン社員が離脱することになって、企業の存続にかかわる事態を招きかねない。
そのためデジタル化によって「便利になった」「楽になった」といった体験を早めに積んでいき、社内からの反発を最小限に抑えながら少しずつ継続的に進めていくことが重要になってくる。紙とEXCELが中心の企業には、導入効果を全社員が体験しやすいサービスであるチャットやWeb給与明細書などから始めるなど、DX化を目指すよりは「デジタル企業」を目指すことがDX化の第一歩といえるだろう。
中小企業のデジタル状況区分
■執筆者プロフィール

樋口雅寿(ヒグチ マサトシ)
コムデック 代表取締役 ITコーディネータ
1972年、三重県伊勢市生まれ。95年、国立鳥羽商船高等専門学校を卒業。地元系IT企業などを経て、97年、コムデックに創業に参画、11年に代表取締役に就任。