筆者はITコーディネータとしてIoT・AIに関するビジネス案件に取り組んできた。その活動の中ではコミュニティから起業したことや、地元の北九州市へのUターンなど、さまざまなことがあった。この連載では、IoT・AIソリューションの開発や導入を柱にITコーディネータの活動について紹介したい。
福岡県北九州市では毎年、IoTをテーマにした「IoT Maker's Project」というビジネスコンテストが行われている。2017年当時は「北九州でIoT」という名前。筆者は東京・中野でIoT・AIをテーマにした勉強会をやっていた関係で、メンバーに声をかけて応募した。
なお、北九州でIoTに応募する母体となった勉強会は、ITコーディネータのつながりの中で生まれたもの。中野セントラルパークにあるコワーキングスペース「ICTCO」でメカトロニクスをテーマにしたワーキンググループが立ち上がり、その派生として立ち上がった。先輩ITコーディネータに引っ張られながら、ITコーディネータ3年目の筆者が運営して資格者に限らないさまざまな人が参加した。
いくつかのテーマがあったのだが、勉強会ではクラウン製パン(ミニクロワッサン店のミニヨンが有名)の「焼きたてのパンを食べるためには」を選んでいくつかの応募を行った。その中で「IoTに対応したハカリを導入でリアルタイムの在庫量を捕捉し、次にパンを焼くタイミングを指示する」という提案が最終選考に残り、北九州市で行われた選考会で採択。ネーミングは、北九州の方言「~っちゃ」にちなんで「焼くッチャ君」とした。
焼くッチャ君に参加したメンバーは、まずIoTに対応したハカリを作って在庫量をリアルタイムに捕捉するというアイディアを出した岩崎光幸氏、焼くッチャ君を命名した青野正道氏、初代のIoTハカリを作った日本テクナート経営者の小島豊司氏、そして筆者である。クラウン製パン常務の松岡寛樹氏には、焼くッチャ君を含めてお世話になっている。
「焼くッチャ君」に携わったメンバー
(左から小島豊司氏、筆者、松岡寛樹氏、岩崎光幸氏、青野正道氏)
焼くッチャ君は現在、北九州市内の2店舗に設置してある。クラウン製パンは街中でよく見かけるベーカリータイプの店舗以外に、ミニクロワッサンの量り売りを行う店舗「ミニヨン」を運営し、ショーケースにさまざまな種類の商品を積み上げ、顧客の注文に応じて店員が袋詰めするスタイルだ。売れ筋の商品では一日に何度も商品を焼き上げて補充する。駅などの大規模施設に入る店舗では、店舗とバックヤードが遠く離れており、台車での往復が何度も必要になるし、バックヤードから店舗の状況が分かりづらいという問題もある。
焼くッチャ君を使うと、リアルタイムの在庫数だけでなく、在庫減少と補充の様子がグラフとして視覚化される。店舗とバックヤードにタブレット端末を置いて、そうした情報を把握できるし、本社でもモニター用のタブレット端末を常設してある。無論、データの蓄積も行なっていて、およそ1年分のデータが貯まった。BIツールで過去を遡って参照することもできるし、予測での活用も研究している。まさに「いま、焼くッチャ!」というソリューションに育てているところである。
まだ開発途上のソリューションではあるが、ここまでの道のりも平坦なものではなかった。もともとビジネスコンテストから始まった取り組みであることから、IoTのハードウェア自体を自分たちで作ろうとしていたし、店舗できちんとデータを取るということも決して容易ではない。IoTでただ何かデータが上がってくるということと、そのデータが正しいというのは別のことなのだ。
次回はビジネスコンテストでの実証実験を振り返って、IoTハカリの開発と店舗での短期の実証実験について取り上げる。
■執筆者プロフィール

井上研一(イノウエ ケンイチ)
ビビンコ 代表取締役 ITコーディネータ
プログラマ・SEとして20年以上の実務経験。AI関連では、コールセンターへのIBM Watsonの導入や、画像認識システムの開発に携わる。IoTハカリを用いたビジネスアイデアにより、「北九州でIoT」に2年連続採択。そのメンバーで、ビビンコを2018年に創業。