2020年以降、全世界的に感染拡大した新型コロナは日本でも流行し、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置、および各都道府県の取り組みによって外食業界に多大な影響をもたらした。非接触ニーズの高まりや外食自粛、リモート勤務の定着など、コロナ禍における生活者の行動変化は、店舗運営に“変わる”ことを突きつけている。この連載ではコロナ禍によって外食業界で浮き彫りになった課題を抽出し、DXによるアプローチの余地を提示する。
店舗運営におけるDX化のヒント
コロナ前、飲食店で食事する際の多くが「幹事が前もって予約」を行うケースが当たり前のようにあったが、コロナ禍で「直近や当日に飲みに行く仲間内の飲み」が主流となっている。これにより、店舗運営の業務へも影響を与え、新たな課題が浮上している。
店舗運営の課題
当日の予約増は前もって計画・準備しにくくなり、当日やらなくてはいけないオペレーションが増加。また、少人数の飲み会が増えると売り上げも減少してしまう。だが、そこにDX化アプローチのヒントがある。
店舗運営は全てを「人なし」で完全自動化できるほど、簡単なものではない。経験を積んだ店長やマネージャーの暗黙知も多く、店内では常に臨機応変な対応が求められる。現段階の技術・価格を考慮すると、人の代替としてシステムによる完全自動化ではなく、人をいかにサポートするのか、に徹することが望ましい。店舗が接客を大事にするのと同じように、システムも人にいかに寄り添うことができるのか、そこに真価が問われる。DX化において重要なのは「予測」と「柔軟性」でないだろうか。
「予測」とは当日の需要を見通すこと
予測とは、確定した予約を元に仕入れやスタッフのシフトを計画するのではなく、当日の需要を見通して準備するということである。経験を積んだ店長やマネージャーであれば、ある程度は予測することができるが、必ずしもそういうスタッフばかりではないのが外食業界の実情。求められるのは、100%精度を誇る予測ではない。初心者でもベテランマネージャーに近い予測ができれば十分である。
外食業界では「人材不足」はもちろんのこと、経験を積んだ「人財不足」が顕著になりつつある。予測について、大手チェーンはもちろんのこと、SMB領域でも仕入れ、売上・予約、アルバイトなど、さまざまなシチュエーションでニーズが今後も高まっていくと推測される。
さまざまなオペレーションに対応する「柔軟性」
当日でも行ける店として予約してもらうには、グルメ媒体やオウンドメディアでの当日予約に対応することが必須となる。店舗はウォークイン需要やダブルブッキングを恐れて、当日予約をギリギリまで解放できていないことが多い。そのため、席の埋まり具合に応じて各集客経路の在庫調整を実現する予約管理台帳が欠かせない。また、想像以上に来店者が多かった場合でも店舗オペレーションを円滑にするためには、店内モバイルオーダーの設置も求められる。そこには利益率の高い商品をより多く注文してもらう仕掛けも必要となる。
当日予約に対する電話対応も重要である。近年、AIによる自動応対システムが増えつつあるが、接客を大事にする店舗では完全切替への抵抗は根強い。店舗にかかってくる電話は、新規の予約や変更だけではなく、道案内や忘れ物、貸し切りの相談など、多岐に渡る。あくまで人が受電することをメインとしつつ、その業務をいかにサポートできるのかがポイントになる。
食事や注文、サービス、電話など、店内でのあらゆるオペレーションに対して、いかに柔軟な対応できるようにするのか、そこにシステム化のニーズがある。
真摯な取り組みがDX化の推進に
「経験が少ない店長でも店舗運営ができないか」「少人数のアルバイトでもオペレーションを簡単に回せるようにできないか」「客単価をもっと上げられないか」など、実は店舗運営におけるニーズはコロナ前から大きく変わっていない。しかし、コロナによって“すぐに変わらなければ店舗運営が立ち行かなくなる現実”を目の当たりにして、その想いが浮き彫りになったに過ぎない。そのシンプルな想いに対して真摯に取り組んでいくこと、それこそが外食業界のDX化を推し進めることにつながるはずである。
■執筆者プロフィール

左川裕規(サガワ ヒロキ)
イデア・レコード 取締役
早稲田大学卒業後、広告会社へ入社。マーケティングプランナーとして従事。家電メーカーや大手通信会社、商業施設などのプロモーション戦略や、Webサイト構築を担当。その後、NRIネットコム(現)に入社。WebテクノロジーとUXの設計構築コンサルタントとして、大手証券会社のWeb戦略、国内流通産業大手のインターネットマーケティング戦略、 ネット損保のWebプロモーション戦略に参画。2016年、イデア・レコードに入社。