自動車業界では「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Sharing & Services(シェアリング/サービス)」「Electric(電動化)」の頭文字をとった「CASE」が、地域の部品メーカーにまで迫ってきている。消費者にとって、身近なところでは衝突防止やドライブレコーダー、GPSとスマホの連携、運転の記録とドライバーへのアドバイスなどだが、部品メーカーでは、これらが従来のハードウェア技術と、位置特定・認識技術、通信技術・AIなどのソフトウェア技術と統合される。そのため、IT業界や保険などの異分野からの新たな参入が激しくなっており、どうこの波を乗り越えていくのか。戦略チームを持たない中小企業のトップは、情報収集にいとまがない。
プロダクトが先かプロセスが先か
経営トップは売り上げやコストなどの数字をモニタリングし、経営を行う。ところが、CASEは、今までの業界構造をゆるがすサプライチェーンプロセスのイノベーションであり、いつものモニタリングが難しい。
まず、今までのISOなどの自社内の活動を認証する制度と違って、CASEは自社を超えたプロセスイノベーションであり、何か認証基準のようなものがあるわけでもない点だ。さらに、顧客要求に対応した在庫・出荷・経理・知財等の管理をITで標準化し、現場にIoT/AIを導入してCASEに備えるとしても、部品メーカーの多くはコア技術が人やモノに属している点も課題となっている。
経営トップや営業責任者は、顧客の声や自社の動きを数字で把握する癖が身についているが、実際に技術でプロダクトを生み出す生産現場では、そのプロセスを数字で把握するトレーニングを受けている余裕がない。5Sなどの生産現場の安心・安全やQCなどの基準でPDCAを行い、業務の見える化に工夫を重ねることで時間に追われている。
技術を生み出すプロセスはどのようになっているか、また新たな連携先と関係するポイントはどこにあるのか、それに伴って現場へのコンセンサスをどうリードしていくか、現場に人材が少なければ、どうやって補うのか――などの記録は、現場以外に共有されず、蓄積されているかは現場長や工場長にゆだねられている。そのため、一気に投資をしてIT化やソフトウェア技術の活用をすることは、トップだけの判断で行うことができない。
目標を自分たちで決める
プロセスイノベーションをリードするには、生き残っていくためのコア技術を見定めなければならない。それには、プロダクトに含まれる現場知の暗黙的な部分を見える化して、社内で共有していくことが最初に必要となってくる。生産現場の効率化・自動化にかかるプロセスではなく、調達から廃棄(ユーザーの廃棄を含む)までの外部との接点を含むプロセスを自社のプロダクトに含まれる生産技術をベースに目標を決める必要がある。
現在、QCサークルの延長の勉強会として、プロセスイノベーションに視点を変化させ、マクロな数字を意識するトレーニングとして、SDGsの活用が進んできている。
環境省「すべての企業が持続的に発展するために-持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド-資料編第2版」では、営業・製造・販売などの業務部門の職能別のプロセスではなく、企業経営としてのプロセスとプロセスにひも付く価値発生タイミングで項目が記述されている。勉強会では、この項目ごとにどのようなSDGsと対応する行動がつながっているかの事例を参考にして、自社の場合の現状と今後したい行動を話し合って決めていく。
バリューチェーンにおけるSDGsのゴールとの関係図
(出典:環境省「すべての企業が持続的に発展するために-持続可能な開発目標
(SDGs)活用ガイド-資料編第2版」)
〇中長期目標の意義を理解して生き残る
実際は、この話し合いを持つ準備のために、幹部の力量が必要となる。社内全体に長期的に体制構築を試すための部署横断的なコアチームをつくる。話し合いに必要なエクセルベースのギャップ分析表だったり、プロセスベースのSDGsターゲットの指標だったりを用意する。
話し合いに必須なのは、中長期計画書である。経営理念やビジョンは抽象的すぎて現場の行動と結びつけるにはギャップが大きいが、中長期計画を使えば、そのギャップは小さくなる。例えば、ビジョンなどを考えて行動計画に落とすには専門のコンサルやデザイナーが打ち合わせで意見を引き出していた。しかし、中期計画書を中心に記載の目指す方向性やターゲットとバリューチェーンをひも付けながら話し合うことで、「自社が生き残るには」「特に魅力となるのはどこか」などの具体的な質問が出やすくなり、それに対する行動のアイデアも現場自ら発言しやすい。
特に話し合いをうまく進めるには、コミュニケーション能力と社内の横断的なつながりを持っている女性をリーダーにすると成功することが多い、と筆者は実感している。
■執筆者プロフィール

村本睦子(ムラモト ムツコ)
ITコーディネータ
官公庁向けシステムエンジニア、まちづくり、6次化支援に携わる。現在、北陸先端科学技術大学院大学で博士後期課程の学生をしながら、顧客企業の新規事業やSDGs経営のコンサルティング、IT経営支援を行っている。