前回は「NFTの特徴とその利点」について述べた。今回は、本題のNFTを用いた「新規事業開発」に関して考慮すべき点に触れていく。NFTを活用した新規事業を起こす上で考えるべきことは多くあるが、ここでは「コンテンツとユーティリティの設計」「顧客価値とNFTの特徴の関係」の二つをポイントとして挙げたい。
まず、コンテンツとユーティリティの設計についてだが、ここでのコンテンツがNFTとひも付けるデジタルデータ、ユーティリティがNFT保有者の行使できる実用的な権利を指す。例えば、ある芸術家が自身の絵画データとひも付くNFTを発行した場合、作品の画像データがコンテンツとなる。また、保有者限定の展覧会を開催する場合、ユーティリティは展覧会への参加権となる。コンテンツに関して、そのデータ形式はさまざまなパターンが考えられるものの、基本的にはサービスに沿ったものを任意に選択する形で問題ない(NFTとデータをひも付ける方法によってはデータサイズが大きなネックとなる場合もある)。
ユーティリティに関して、NFT黎明期は単にコンテンツの購買を証明するのみのNFTがほとんどであったが、現在ではさまざまなユーティリティを持ったNFTが登場している。この流れが進むほど、保有者に権利を提供するためのプラットフォームが必要となり、NFT関連のサービスはさらに多様化・個別化していくとみられる。
また、コンテンツとユーティリティを設計する上で重要なことは「このNFTは今どれだけの価値を有しているのか」という点である。NFTは複数のサービスを通じて保有者が二次販売を行うことができる。そのため、保有者はコンテンツや発行者に対してポジティブな行動(拡散やアンバサダー的行動など)をとることが多い。
NFTは発行時点で広く価値が認められていなくとも、「応援したい」「将来に期待ができる」などの理由で購入してもらうことができるというわけだ。そのため、コンテンツ、ユーティリティ、さらには価格と数量を決める上で購入理由だけではなく、「保有者とどのような関係を構築したいのか」も考慮する必要がある。
次に、顧客価値とNFTの特徴の関係についてだが、NFTに限らず、流行りの技術を事業や施策に取り入れようとすると、技術を取り入れることが目的になってしまうことが多い。ところが取り入れることを中心に据えると、ユーザーにとって価値の薄いサービスになってしまう。それを回避するためにNFTならではの特徴がどのように顧客価値と対応しているのかを意識する必要がある。
つまり、「ユニーク性」「独立性」「追跡性」といった特徴がどのようにして顧客のベネフィットになっているか、という問いに答えられなければならないということになる。例えば、アパレルメーカーがアバター用のアウターを販売した際は、以下のように仮説を立てることができる。
アパレルメーカーによる「特徴」と「ユーザーのベネフィット」
この三つの特徴のうち、とりわけ重要なのが独立性であるといえる。なぜなら、サービスを横断する必要がない場合、サービス内で保有者のフラグ管理を行うだけで良いからだ。その意味で上記の例ではメタバース(プラットフォーム)が乱立される可能性がある中、特定のプラットフォームに依存せず、購入したアウターを持ち運べることが大きな価値を生むと予想できる。また、顧客価値とは異なるがメーカーの立場からは自社でメタバースプラットフォームや販売サイトを持つ必要がないというのもメリットといえそうだ。
■執筆者プロフィール

吉上諒(ヨシガミ リョウ)
クラウドサーカス 新規事業開発部事業部長
1993年、神奈川県生まれ。早稲田大学文学部卒(専攻は統計学)。17年、デジタルマーケティング事業を手掛けるスターティアラボ(現クラウドサーカス)に入社。ARプロモーションツール「COCOAR」のセールス職に従事。COCOARのプロダクト責任者、AR領域の新規事業責任者も兼務。18年、自身で立ち上げたAR領域の新規事業がグループ化し、事業責任者に就任。現在は新規事業開発部の事業部長としてARやNFTなどの技術を用いて顧客の事業を創出。