視点

「NFT」は価値観を変える革命だ

2022/03/09 09:00

週刊BCN 2022年03月07日vol.1913掲載

 昨今、ブロックチェーンとデジタルアートを組み合わせた「NFT(Non-Fungible Token)アート」が高額取引され話題になっているが、本当の価値についてはあまり認識されていない。ブロックチェーンの活用についても「それ、ブロックチェーンじゃなくても良くない?」というものも多い。

 例えば、有機栽培野菜の真偽性をブロックチェーンが保証するとかだが、そもそも消費者がほしいのは商品の真偽性を確かめることではなく、安心なものを手に入れることである。その真偽を含めてショップが担保してくれればいい。知らない名前の農家さんが作ったことを保証されるよりも、スーパーのブランドを信頼したほうが安心だ。

 NFTアートについてもコピーされない仕組みだとか、本物を証明する画期的な方法だとかいう説明を私は何度か受けたが、そこに価値はない。これまでコピーされてしまっていたものにサインが入り、これは本物(というより版元というか著作権者が認めた元データ)という印が付いている。

 そして、その印はブロックチェーンの中に刻まれ、それを改ざんすることが難しいというだけで、アートとしてのデジタルデータは誰でも見ることができるし、キャプチャーしてしまえばコピーもできる。

 では、NFTアートの価値はどう理解したらいいのだろうか。それには、所有することの意味を大きく変える必要がある。これまでは所有しているアート作品が認められ、価値を持つためには作者がプロモーションしたり、現物を貸し出したりする必要があった。また、そもそもデジタルアートは誰でも見ることができるものなので所有するという概念がなく、作られた作品は製作費しか得られなかったのが実状だ。

 一方、NFTアートは所有者と作者が共にその作品から生まれる収益をシェアすることができる。そうなるとコピーが出回ることもマイナスとは限らない。たくさんの人が見て作品の評価が高まれば、元データの価値は高まる。拡散されて見られることで価値が高まることなどなかったデジタルアートが、連動した価値を持つようになり、これまでの所有とは違った概念をもつことになる。

 この仕組みを使えば作者は作品をつくる前にNFTを権利として販売し、制作費用を調達することもできるようになる。Web3.0は技術だけではなく価値観の革命でもある。固定概念では理解しづらいので注意が必要だ。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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