サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合したSociety 5.0社会では、IoTで全ての人とモノがつながり、5GやAIといった先進技術でさまざまな知識や情報がリアルタイムに共有され、今までにない新たな価値を生み出すことが期待されている。Society5.0を現実のものとするためには、どのように取り組めば良いのだろうか。
IoTでは、センサーが取得したデータ値に基づいて制御を行うだけでなく、複数箇所や膨大な数のセンサーからのデータを集積して機械学習やAIなどを介して解析することで新たな価値を見出すことが重要になっている。新たなIoTビジネスを生み出すためにはデータの集積とサーバーでの解析が重要になってくるため、ビジネスアイデアを早期に概念検証(PoC)し、サーバーでのデータ解析を繰り返し行う必要がある。
しかしながら、多くの企業はアイデアだけでPoCに向けた予算を獲得することが難しいため、センサーやコントローラを搭載した新規IoTデバイスの開発に着手できず、IoTで重要なサーバーでのデータ解析設計を行うことができない。また、機械学習やAIなどのソフトウェアエンジニアや個人にとっても、データを集積するためのハードウェアが必要となるが、コントローラやセンサーの選定からブレッドボードを使ったハードウェアの試作は困難である。
さらに、さまざまな環境で一定期間のPoCを継続するには、ブレッドボードで作成した試作ハードウェアでは、設置や長期間の安定動作が難しく十分なPoCを行うことができない。そのため、誰もが簡単に取り扱えるIoTデバイスの必要性が高まっていた。
モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC) では、小型、バッテリ駆動、そしてモジュール化され容易に取り扱えるデバイスを“ナノコン”と定義し、2018年にナノコン応用推進WGを立ち上げ、その普及促進に取り組んでいる(ナノコンは、MCPCがライセンスしている登録商標)。
ナノコンの代表例が、トリリオンノード研究会が研究開発する「Leafony」である。このLeafonyは、ナノコンの特徴である“小型、バッテリ駆動、そしてモジュール化され容易に取り扱えるデバイス”を全て備えている。リーフと呼ばれる約2cm四方の電子基板を複数組み合わせることでハードウェアを構成する。
はんだごても不要で、マイコン、センサー、通信機能、電池のリーフをブロックのように組み合わせるだけでIoTデバイスを試作できる。従って、Leafonyを用いれば、ハードウェアが苦手な人も含め、多くのアイデアを簡単に形にすることができ、IoTビジネスで重要となるデータ収集・解析に重点を置いたPoCを早期に取り組むことが可能となる。
MCPCナノコン応用推進WGでは、Leafonyに代表されるナノコンの価値を広く知ってもらい、多種多様な社会課題の解決に役立ててもらうことが、Society5.0を現実のものとする一助になると判断し、ナノコン応用コンテスト、勉強会、活用事例をまとめたハンドブックの制作などの活動に取り組んでいる。ナノコン応用コンテストは、社会生活を豊かにするアイデアをナノコン代表例のLeafonyを使って創作する技術・アイデアコンテストで、LTE-M通信も利用できる。今年で3回目となるナノコン応用コンテスト( https://www.mcpc-jp.org/pdf/20220513_Nanocom_contest.pdf )は、6月1日に募集を開始した。また、7月29日にMCPC・東京大学桜井研究室 ナノコン勉強会を開催し、IoTにおけるLTE-Mの価値を伝える講演やパネルディスカッションを行う予定である。次号では、MCPCナノコン応用推進WG活動について紹介する。
■執筆者プロフィール

利光 清(トシミツ キヨシ)
MCPC技術委員会 副委員長・ナノコン応用推進WG主査
名古屋大学大学院工学研究科(博士前期課程)を卒業後、東芝に入社し、無線通信の研究開発、新規事業開拓、技術マーケティングに従事。現在、東芝インフラシステムズでカード・セキュリティシステムを担当。ISO情報技術国内委員会委員。