近年、CMや広告で「SDGs」や「サステナブル」という言葉を耳にする機会が増えた。環境配慮の議論の長い歴史を踏まえると、今後もこのキーワードは世界の中心になると予想される。この連載では、エシカル消費、サーキュラーエコノミー、食の安心・安全と緊要性が高い内容などについて解説する。
エシカル消費とは?
例えば、カフェに入店し、コーヒー2種類が目に入ったとする。一つめは、児童労働させてコーヒー豆を輸入、製造が安定せずロスが多く、CO2排出も多い100円のコーヒー。二つめは、一般人の労働による栽培、安定した製造でロス少なく、再生エネルギーによりCO2排出を相殺している1000円のコーヒーだ。さて、どっちを選ぶだろうか。
「環境的には二つめだけど、値段が高いな」と思うケースは少なくないはず。ただ、二つめを選択することが「エシカル消費」だ。
この聞き慣れない「エシカル」は、辞書を引くと「倫理的・道徳的」という意味で、消費者目線で表現すると、一人ひとりが日々の生活を通して社会的な課題に気付き解決のために商品の背景やストーリーを考える消費行動である。エコやロハスという言葉も包含する意味である。
エシカル消費の社会潮流と未来の兆し
現在の日本におけるエシカル消費の潮流は、消費者庁が男女16歳から65歳までの全国2803人を対象として2020年に実施した調査の結果「倫理的消費に関する消費者意識調査報告書」によると、エシカルな食料品を購入している割合が16年の7.9%から19年に36%、家電・贅沢品が16年の3.1%から19年に17%と増加している。
一方、グローバルに目を向け、欧州委員会が20年末に行った調査によれば、欧州連合(EU)27カ国の消費者の56%が買い物の際に環境への影響を考え、67%が値段が高くても環境に良い商品を購入するとのことだ。
調査内容が異なるため、大雑把な考察だが、環境意識に関して日本よりも欧州の方が社会浸透している。特に、大手メーカーのネスレとタイソンフーズは非営利団体を結成し、評価基準として「A+」から「G」までの「環境スコア」を食品ラベルに記載するプロジェクトを推進している。
グローバルにおいて人口層のマジョリティがZ世代に切り替わり、デジタルの進歩により人と人が直接つながりエシカル消費の社会浸透が進む過渡期である今、欧州の後追いでは市場獲得の機会が危ぶまれる。
エシカル消費への行動変容を促すルールメイク
デジタルに期待される点は、企業と消費者の架け橋となりエシカル消費を促すストーリーを作ることだ。経済合理性の追求でなく環境を配慮した企業活動を消費者の琴線に触れるように発信することで、企業と人の距離を近く感じることがポイントである。
また、製品やサービスに必要な原料の採取から、製品が使用され、廃棄されるまでの全ての工程での環境負荷を定量的に表す「LCA(ライフサイクルアセスメント)」を嘘偽りなく開示することもポイントだ。商品のラベルに「CO2〇トン排出」と記載されても判断は難しいため、「環境スコア」に加えて「製品の一生を物語」として公開できると共感につながる。
さらに、金銭のインセンティブでは経済メリットがなくなると消費者は離反してしまうため、サロンでの自分事化や専属農園での環境実体験などコトを消費者に提供し、ロイヤリティを高めることがポイントである。
エシカル消費への行動変容を促すルールメイク
将来、エシカル消費の考え方は社会に浸透していく。真摯に対応するためには、大企業だけでは難しく、中小ベンチャー・研究機関との補完、金融機関からの高評価、メディア発信するビジネスエコシステムを形成し、VC上のステークホルダの行動行動変容を正しく促すことが未来の子供たちにすべき企業命題ではないだろうか。
■執筆者プロフィール

高野将臣(タカノ マサオミ)
日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 社会イノベーション事業統括本部 次世代事業開発本部
ITコーディネータ
1983年、愛知県出身。2007年、日立製作所に入社。産業業界を中心にインフラ関連のシステムエンジニアを経た後、SCMの業務コンサルティングに従事。現在は、顧客協創によるビジョンデザインやサスティナビリティ事業のプロデュースに携わっている。特に、IoT進展で社会やビジネスが生み出したデータを活用して、新たな価値を創造するデジタルプラットフォーム「Lumada」のインキュベーション活動を行っている。