コンシューマー向けに製品・サービスを提供する企業はもちろん、法人向けにビジネスを手掛ける企業であっても、SNSを抜きにウェブマーケティングを展開することは考えにくくなってきている。「まだ何もやっていない」という企業は少ないといえるだろう。ところが、多くの企業で運用方法を間違ってしまい、労力がかかる割に効果がみえず、属人的になってしまって負担がかかることに加え、担当者が職場を変わると放置されているという例が多く見受けられる。これは、担当者のせいではなく、もちろんSNSのメディアそのものに人気や力がなくなったわけではない。
原因は、(1)運用するSNSメディアが、その企業のドメイン(事業領域)と合ってないこと、(2)「効果」の設定方法が間違っていること――などがほとんどだ。まず、重要なのは「誰に」アプローチしたいのかを明確にして、その層にあったSNSを選ぶということ。「自分がFacebookをよく見ているから」「担当させようとした社員が唯一Instagramをやっているから」というのは、アプローチしたいユーザーに関係ない。それぞれのSNSにはメインに使われている「性別や年齢」などのデモグラフィック属性と「興味関心による分類」「メディア内での空気感や文脈」というものがある。
また、最近では、各SNSに使い分けが起きていて、「目的」に応じて使い分けているケースもある。例えば、Twitterは20代が多く平均年齢が35歳、男性が多かったが、最近では女性ユーザーも多い。加えてリアルタイム性が高く、ニュースを調べたり、テレビなどを見ながら検索したりするのに適している。ユーザーは興味関心でつながっているのだ。
Instagramは、20代後半から40代の女性という変遷を経て、現在、20代前半も増えてきている。拡散性が高いのが特徴で、海外にもリーチが可能。今ではフィード投稿よりもストーリー投稿が増えており、チャットのコミュニケーションも盛んだ。Facebookに関しては、40代以上が多くリアルなつながりを重視。フィードを見ることは減っているといえるが、メッセンジャーの利用が盛んで、他のメディアのログインIDとしてもGoogle IDに次いで多い印象だ。
そのほか、広義のSNSとしてのYouTubeやPinterest、Note、世界的にビジネスユーザーの多いLinkedIn、動画の世界を一新したTikTokなどがあるが、それぞれ「誰に何を届けたいか」を考えて運用するメディアを選ぶべき。そして「効果」を再定義することが重要だ。SNSを「プロモーションの一環」と考えると、そこからの直接売上やSNS自体で把握しやすい「フォロワー」「いいね」などの数をKPIとして捉えてしまいがちだが、本来、SNSは「コミュニケーション」のツールで、企業が運用する際でも「ファンと交流してファンを増やす」ことを重視しなければならない。
たくさんのユーザーに届けるなら、「リーチ」「インプレッション」が KPIになる。リンクをクリックしてもらうことや、シェアをしてくれた「エンゲージメント」も重要。正確にメディアを選び、効果測定をきちんと考えた上で運用を行えば、運用そのものも楽になり効果が出やすくなる。
■執筆者プロフィール

積 高之(セキ タカユキ)
京都積事務所 代表 ITコーディネータ
広告・ブランディングの職務を経験後、コンサルタントとして独立。大手子供服SPA,酒販小売業チェーン、保険代理店などの顧問・コンサルタントを歴任。ITだけでなく小売業・広告業の実務経験を通じ、リアルビジネスのマーケティングをベースにしたコンサルティングのノウハウを持つ。関西学院大学専門職大学院 先端マネジメント研究科(後期博士課程)在学中。経営管理修士(MBA) 関西学院大学大学院経営戦略研究科卒。チーフSNSマネージャー、上級SNSエキスパート、上級ウェブ解析士などの資格も持つ。