データ活用という山の解説にあたって、自社がどのような状態であればどのレベルに達しているのかが分かるよう、各レベルについて前回は説明したが、今回は核となる「データでつながる現場と経営」について解説していく。まず、どのような状態がデータでつながっている状態なのかイメージを湧きやすくするために、「つながる」の逆からみていこう。つながっていない状態を指す言葉は、「分断している」「サイロ化している」「バラバラ」といったものが挙げられる。そのような状態において、どのようにしたら「つながって」いくのか、過去の実体験を例に紐解いていく。
製造業の開発部で働いていたある日、開発部のフロアに「経営目標:売上高2000億円、営業利益率10%、ROA7%」と書かれた貼り紙が出現した。これを見たとき、特段何も思わなかったが、後日、事業本部長の戦略説明を聞いた際に大きな違和感を覚えた。経営的な目標を事業部レベルに分解した数字は説明されたのだが、そのための戦略が「“徹底的に”コストダウンを図り、“圧倒的な”高品質で、“きっちりとした”モノづくりをする」といった感じで、何をどれだけ改善するかが含まれていなかったからだ。
本来、現場と経営はデータでつながっている。しかし、「ROAを上げる」ために「部材購入費を下げる」のか「在庫回転率を上げる」のかで、担当する部署もやり方も変わる。また、もしも購入単価を下げるために大量注文したら、在庫回転率は下がってしまうといったトレードオフも存在する。
戦略を立案する側は個別最適に陥らず実行可能な戦略を立てるために、現場と経営のデータをつなげて、何をどれだけ改善する必要があるかが見えていなければならない。データでつながっていれば、現場での施策の効果測定も可能で、それが経営レベルでどの程度の影響があるのかもデータで分かるようになる。
本来データでつながっている現場と経営
一方で、現場と経営のデータが全くつながっていない企業はまれだろう。レポーティングを通して各部門から経営層に定量的・定性的な説明がされることは、現場と経営をデータでつなげようとする行為ともいえる。このとき、どれほどレポーティングに手間がかかるだろうか、また、経営層からの質問にどの程度即答できているだろうか。現場と経営のデータでのつながりがシステム的に弱いほどレポーティングの手間もかかり、「たぶん~」「~だろう」の回答が増えてしまう。
よくあるレポーティング風景
データの活用や分析というとERPやCRMなどのシステムのデータに着目しがちだが、現場と経営をつなげるために重要となるのが、現場の「スモール&ワイドデータ」。業務遂行の結果生まれたExcelや帳票などの「現場」のデータは、鮮度が高く、解像度も高いため、活用できれば経営にとっても有用だ。
こういったデータはシステム内の「ビッグデータ」に対して、「スモール&ワイドデータ」と呼ばれている。ところが、スモール&ワイドデータは部署や社員個人で個別の目的のために作成・管理されており、経営サイドがシステム内を探しても役に立つ形ではデータが出てこない。ちょっとした工夫が必要となる。
例えば、品質管理部門が高品質な商品を顧客へ届けるために管理している「不良率」に対して、「使用している材料費」をかければ「材料原価ロス」に変換され原価管理に利用できる。このような現場のデータは、収益性を説明する指標に変換するデータモデルを構築していくのだ。
現場のスモール&ワイドデータが構造化され分析できる形になれば何が起きるか。一つは、現場の業務分析ができ、生産性改善に役立つことが挙げられるだろう。加えて経営サイドは、より実効性の高い戦略立案や市場の状況変化に応じた機動的な戦略変更が可能となる。
「スモール&ワイドデータ」はなぜ重要?
「現場のスモール&ワイドデータを全てシステム化して経営につなげる」と聞いたら、途方もない夢物語のように聞こえるかもしれない。ただ、ちょっとした工夫を積み重ねることで、現場と経営は徐々にデータでつながっていく。地道ではあるが、データでつながってくれば、皆が同じ山の頂を見てデータ活用の山を登り、山頂からの素晴らしい風景を皆で見ることができるのである。
■執筆者プロフィール

小林大悟(コバヤシ ダイゴ)
ウイングアーク1st Data Empowerment事業部ビジネスディベロップメント室兼カーボンニュートラル事業企画室兼エヴァンジェリスト
BIダッシュボード「MotionBoard」を活用し製造業向けのデータ活用推進やソリューション企画に携わった後、ビジネスディベロップメント室へ異動し、Data Empowerment事業部の事業拡大や新たなビジネスモデルの立案を推進。10年以上にわたってIoTの推進に注力しており、ベンチャー企業でのIoTプラットフォームの事業企画や、大手ドイツ自動車部品メーカーでのインダストリー4.0やコネクテッドカー向けシステムを手掛けた経験から、IoTデータの活用や、現場と事業戦略をつなげるデータ活用といったエヴァンジェリスト活動も行っている。