この連載では「データでつながる現場と経営」というテーマのもと、データ活用という山を解説している。前回はデータ活用について状況を整理していったが、今回は、どんな状態であればどのレベルに達しているのかが分かるよう、各レベルについて説明していく。筆者のもとに寄せられる相談の場合、「今こんな課題があって、ここでつまずいています」と、相談者は具体的に課題を把握されていることが多いが、筆者のようなIT技術者に相談をする、という時点で、ある程度はデータ活用が進んでいることが多い。イベント来場者向けアンケート結果でも、「データが分断・サイロ化している」との回答が約半数近くにのぼった。
データの課題は何ですか?
(「updataNOW21」来場者アンケート結果から)
一方で、相談するフェーズの手前、「課題はいったい何か?」「何をして良いのかが分からない」といったケースの方が多いのではないだろうか。
「データ活用」の山
まず山の麓を見ていこう。使用するデータやツールが組織レベルで用意されておらず、社員がそれぞれの方法でデータ活用を行っている状態がレベル1となる。「チームごとにデータ活用の仕組みができており業務改善に向かって動いている」状態だとレベル2。データ活用を通じて、業務改善やオペレーション改善といったチーム・部門単位での改善が図られている状態だ。そこからチームや部門にとどまらず「組織横断または全社共通でデータ活用のシステムが整備され売上向上や意思決定のスピード化に向かっている」状態までくると、山の中腹あたりのレベル3となる。
ここまでは割と、組織のシステムがどこまで整備されているか、という話である。この先頂上に向かって、データからどれほどのビジネス成果を生み出せているかという話になってくる。「データ活用によって、自社の製品やサービスを差別化している」といった顧客・体験価値の再構築になるような次元にいるとレベル4である。
「データを活用することにより新事業まで起こしている」となると頂上だ。レベル4から5は、「そのデータを活用して何がアウトプットできるか」が要である。レベル4であれば差別化を図ることができ、例えば「データ分析によるとほとんどのお客さんがAではなくBに魅力を感じていることが分かった。AではなくBを強化しよう!」といった状態で、実際にそれを製品・サービス開発に反映する。
レベル5になると、さらに「このデータ活用による差別化手法をサービスとして新事業にしてしまおう!」となる。こうなってくると、「データの力」が凄まじいものとなってくる。ちなみに、筆者が所属している企業の顧客事例をみると、レベル4~5に位置している例はおおよそ数%で、大半はレベル2~3となる。頂上への到達は難しいということだ。
では、筆者が所属している企業はというと、各部門でKPIを出して目標設定し施策を実施しているため、レベル2が完璧。レベル3に到達しているかどうかは、これを横串で通してみえているかどうかを考える必要がある。
例えば、マーケティングに特化してSQL(Sales Qualified Lead)に投資するのか、もしくは営業リソースを増やすべきかなど、各部署でギャップを埋めて全社的に最適化できているかについては、バリューチェーンをつなげて収益を最大化するという観点でまだ改善余地があると捉えている。また、自社のデータ活用のツールとノウハウを組み合わせて新規の事業も生み出しており、レベル5も混在した状態となっている。
「データ活用」の山はさっぱりしているようにみえるが、本当はこの山の裏にレベルごとの細分化された詳細定義や役割、タスクが存在する。データ活用の戦略やビジョンの策定に始まり、予算や人材の確保、適切な品質と権限管理がされたデータの整備、ツールの導入、業務プロセスへの適用、組織や社員へのデータ活用の文化の浸透などだ。これらに抜けがあると、データ活用の山登りで立ち往生してしまう。「そなえよつねに」ということで、データ活用に臨む必要がある。
■執筆者プロフィール

小林大悟(コバヤシ ダイゴ)
ウイングアーク1st Data Empowerment事業部ビジネスディベロップメント室兼カーボンニュートラル事業企画室兼エヴァンジェリスト
BIダッシュボード「MotionBoard」を活用し製造業向けのデータ活用推進やソリューション企画に携わった後、ビジネスディベロップメント室へ異動し、Data Empowerment事業部の事業拡大や新たなビジネスモデルの立案を推進。10年以上にわたってIoTの推進に注力しており、ベンチャー企業でのIoTプラットフォームの事業企画や、大手ドイツ自動車部品メーカーでのインダストリー4.0やコネクテッドカー向けシステムを手掛けた経験から、IoTデータの活用や、現場と事業戦略をつなげるデータ活用といったエヴァンジェリスト活動も行っている。