IT化とは、業務のプロセスや業務フローにツールやシステムを取り入れて、アナログで行っていた作業をデジタル化することだ。
例えば、ある会社は勤怠管理をタイムレコーダーで行っていた。紙に出社時間や退社時間を打刻して、管理部門が毎月締めて計算していたが、勤怠管理システムを導入することで、勤怠に関する情報収集や給与計算が自動で集計できるようになった。社員はパソコンやスマートフォンから打刻をすることできるようになり、インターネットが利用できる環境であれば、外出先やテレワーク時にも利用できるようになった。
IT化を進めることで、場所の制限がなく業務ができるようになり、コロナ禍などの非常事態の際にはスムーズにリモートワークが推進できるようになった。また、印刷や記入・押印、書類の保管などの手間が省けるようになり、業務効率化が推進され、人手不足の解消にもつながった。少子高齢化やビジネスのグローバル化などにも柔軟に対応できる体制を作ることができた。
しかし、IT化が全く進んでいない企業もある。いまだにITで処理するよりも人間の手で処理した方が確実だと考える経営層もいる。IT部門を持つほど社員や予算に余裕があるわけではなく、リーダーも存在しないため、IT化の決議がされてもプロジェクト自体進むことができないまま頓挫してしまうことがある。
IT化を進める際には、大きなシステムを導入するのではなく、身近な業務が直感的に簡単に使えるツールに置き換えるところから始めることを強く勧める。実際に仕事をする人間や経営陣が使いこなせないと意味がないからだ。ここで便利さを体感してもらい、IT化することに慣れてもらうことが重要だ。
ある不動産会社の連絡手段はメールだった。営業担当の日中は外回りで、社内や社外との連絡はメールが中心で、夜、会社に戻ってから行っていた。日報の提出も義務化されており、日報承認がなければ業務が終了できなかった。上司への報告・連絡・相談も会社に戻ってからで、現場の人間も上司も勤務時間が延びていて、会社内でも残業時間が問題になっていた。なお、緊急の際には自分の携帯電話で連絡を取っていた。
コロナ禍でリモートワークを導入することになり、この会社ではチャットツールと1人1台スマートフォンが支給された。「メールとチャットと何が違うんだ。メールでいいのでは」という経営陣の意見もあったが、チャットツールをいち早く導入していた主要取引先からチャットでやり取りをしたいという希望もあり、導入の決議が行われた。
責任者も加わったグループチャットの中で、問題や相談事が起きた時には速やかに報告が上がるようになった。対応策の指示もすぐに届くようになった。日報もグループチャットで送られた。各グループの責任者同士でグループチャットを設けることで、横の連絡網ができて社内会議も時短できるようになった。また、移動時間や空いている時間も有効に活用できるようにあり、残業時間が大きく削減できた。
チャットツールとスマートフォン導入の効果
導入したチャットツールは、感覚的に操作ができて、スムーズに利用できたことが大きい。メールの時のように、「〇〇様、お疲れ様です」のように書き始まるのではなく、要件だけを送る手軽さも好評だった。ファイルも添付して簡単に送れるし、ビデオ会議機能もあるので会社にいなくても会議に参加でき、送ったメッセージにタスクを入れることで、メールが埋もれてやることを失念したということもなくなり、結果ストレスなく移行できた。
IT化というと大きなシステムを全社的に導入して…というイメージを持っている人も多いと思うが、このように普段使っている機能の置き換えからはじめて、IT化することの便利さを体感させることから始めることも重要だ。
■執筆者プロフィール

森 和吉(モリ カズヨシ)
吉和の森 代表取締役
吉和の森 代表取締役 ITコーディネータ
1970年青森県八戸市出身。94年立正大学卒業後、郵便局勤務などを経て、99年オリコンに入社。音楽雑誌の編集からウェブサイトの運営を担当する。その後、ソーシャルゲームやメーカーや流通、不動産投資会社でウェブマーケティング事業に取り組み、19年に吉和の森を設立。ウェブ解析士マスター、チーフSNSマネージャー、提案型ウェブアナリストなどの資格も持つ。