一時期、「〇〇×IT」という言葉が流行っていた。「不動産×IT」「士業×IT」「農業×IT」など、アナログな作業をデジタル化(IT化)することで業務効率化やコスト削減していこうというものだ。実際、業務の効率化が成功し、IT化することで市場での企業価値が高まったという例もある。そこで筆者の体験を踏まえ、不動産業界を例にしてIT化の成功事例と失敗事例について解説したい。
特に不動産業はIT化が遅れているといわれている。電話で連絡をし、FAXで情報のやり取りをし、接客は対面が中心、郵送での書類のやりとりが日常で行われている。また、日々、物件確認(不動産情報が紹介可能か電話で確認すること)や物出し(物件情報を探して登録すること)を行わなければならなく、数時間を費やしている。そういった点では、IT化を進めるメリットは大きい。
一番大きいのは「業務効率化」。ITを導入することで、コスト削減が可能なほか、労働環境が改善できる。今まで紙で行っていた社内の手続きをインターネット上で完結できるようにするだけで工数が変わる。
ある会社では、請求書や経費精算・直行直帰や在宅勤務などの出勤申請を紙で行っていたが、現場からみると押印をもらうために回る人数は3~4人が当たり前で、押印権者が必ずしも席にいるわけではない。承認まで1週間かかっていたという。また、紙の伝票を1枚1枚めくり電卓を叩いて売り上げを集計してきたというケースもある。
これらの課題をIT化によって解決。請求書のIT化によって、人的ミスがなくなり、請求処理に掛かっていたコストを削減することができた。また、請求書を電子化することで、郵送費・封筒代、紙・インクなどの経費が削減された。勤怠管理をIT化することで、テレワークが増えているのに勤怠の集計をするために出勤したり、月末になって残業時間の超過に気付いたりすることもなくなった。結果的には、システム導入で自動化して短い期間で正確に売り上げや原価・販管費の集計が可能になったのだ。
ITの活用で、業務がシステム化されて少人数でも時間短縮して正確に業務を行う体制を整えることができる。会社で力を入れる事業や適材適所で配置の転換を行うことができるようになる。また、テレワークもIT化の一つだ。子育てなどで家を離れることができないという課題を解決するほか、地方や海外の人材の活用が可能になってくる。
IT化により、売上を締める期間が短縮化されて、管理部門の工数削減ができたという例もある。結果、希望を踏まえてマーケティング部門に人員を再配置することができ、IT化を促進。テレワークが推進されたことで、通勤や家庭の事情で採用を見送っていた人材を採用することができて、人手不足を解消し始めている企業もある。
さらに、ビジネスチャンスも広がる。インターネットの活用で販路が拡大し、海外とのやり取りができるようになり、グローバル化を進めた企業もある。ホームページやSNSを販売促進ツールとして上手に活用しているところもある。
実は、隠れた大きなメリットとして、IT化によって「企業価値が上がる」こともある。もちろん、自社の売り上げや利益を上げるということは重要だが、IT化の可能性を踏まえて評価が高まるのだ。
次回は、IT化の失敗事例について解説していきたい。
■執筆者プロフィール

森 和吉(モリ カズヨシ)
吉和の森 代表取締役 ITコーディネータ
1970年青森県八戸市出身。94年立正大学卒業後、郵便局勤務などを経て、99年オリコンに入社。音楽雑誌の編集からウェブサイトの運営を担当する。その後、ソーシャルゲームやメーカーや流通、不動産投資会社でウェブマーケティング事業に取り組み、19年に吉和の森を設立。ウェブ解析士マスター、チーフSNSマネージャー、提案型ウェブアナリストなどの資格も持つ。