我々の行動の全ては、顧客の獲得か、顧客の維持を目的としている――。ゼネラル・エレクトリック(GE)の最高経営責任者で、「伝説の経営者」と呼ばれたジャック・ウェルチ氏の格言だ。その大切な顧客を獲得、維持する仕組みを持っているかが鍵を握るというわけだが、大企業ではSalesForceなどのCRMツールを用いることが多い。一方、中小企業には難しすぎる、あるいは費用的にも手が届かないこともあり、あるはずの「顧客管理」の仕組みがないことが多い。では、どうすればいいのだろうか。
まず顧客獲得、維持といっても、地方と都市部のBtoB系企業では、必要性が異なることを頭に入れておく必要がある。BtoB系の地方中小企業は、経営者と同じ小中学校の先輩・後輩、商工会議所、経営者団体などの付き合いに加えて、既存顧客からの紹介によって緩やかに顧客拡大を行っているケースが多数を占める。そのため、営業プロセスの再現性が低く、論理的ではないため「顧客獲得を管理」する必要性は低い。
属人的な人間関係で獲得した取引先は、人間関係要因のスイッチングコストが高く、簡単に離れていくことはないが、人間関係にヒビが入らないよう、トラブルやクレームの対応が大切となる。地方では新たに起業して成長する企業は年々減少しており、売り上げを維持するためには既存顧客への提案、メンテナンスに更に力を入れる必要性が高まっている。
CRMツールの多くは、営業プロセスの管理など、業績拡大を目指した顧客獲得に重点が置かれているが、現在の地方BtoB系中小企業にとって重点を置くべきは、売上維持、顧客維持の機能である。このためCRMツールを導入し、データを登録しても売り上げが大きく増えるわけでないので、費用対効果が見込めず早晩行き詰ることが「顧客管理」が多くの企業で行われていない原因の一つではないだろうか。
そこで地方中小企業にDX、ITツールを提案する担当者にお勧めしたいのがノーコード、ローコードツールによる費用をかけない「顧客維持を目的とした顧客管理」である。
サイボウズ「kintone」によって「顧客情報」データを用いた
「案件管理アプリ」と「トラブル対応アプリ」の作成例
例えば、経営者や部門長はkintoneにログインすれば、最新の営業案件、トラブル(クレーム)対応履歴を把握できるため、「あの案件どうなった?」「A社の障害解決した?」と聞く必要がなくなる。また、案件やトラブルステータス別の件数、金額の集計やグラフ化も容易にでき、経営者や各担当者だけでなく全社員が最新の状態を把握できるようになっている。
障害要因別分析
数時間もあればアプリケーションが完成するため、費用対効果は極めて高く、今までできなかったことが実現できたと経営者に喜ばれることは間違いない。
地方においてはさまざまな理由から企業数は減少を始めており、地域内で新規に顧客を獲得することが極めて困難になりつつある。営業担当がどれだけ頑張っても、新規顧客開拓の成果は知れている、顧客開拓はさまざまな人間関係を駆使できる経営者の仕事と割り切り、普段から顧客先に出入りする営業担当だけでなく会社全体として顧客の維持、つまり「顧客満足度の向上」に力を注ぐのが得策である。
地方中小企業のDXを支援するには、「顧客管理」という言葉一つをとっても、何のために「顧客管理」を行うか導入先企業に寄り添って提案、推進することが、DX実現へ向けた改革のスピードを速めることになるのである。
■執筆者プロフィール

樋口雅寿(ヒグチ マサトシ)
コムデック 代表取締役 ITコーディネータ
1972年、三重県伊勢市生まれ。95年、国立鳥羽商船高等専門学校を卒業。地元系IT企業などを経て、97年、コムデックに創業に参画、11年に代表取締役に就任。