地方では車通勤が多く、広告は田畑に立つ看板、オフィスも先祖代々の土地で築数十年といった事務所が多く、視覚的変化に乏しいのが現実である。一方、都市部では同じ通勤でも電車通勤が多く、さまざまな広告や新陳代謝による風景の変化があることで移動の間にも視覚的に多くの情報を仕入れられる。地方でも若い世代は、ネットの世界を時に倍速再生しながら自由に闊歩することができるが、地方中小企業の主力である多くの中高年は老眼で長時間ネットに没入することも難しくなっており、新しいモノ、コトに対する情報量が大きく劣ってきているのが事実だ。
そのため「Facebook/Instagramによる広報」「Zoom面接」「顧客とのWeb会議」「Youtube動画制作」などの新しい仕組みを業務に取り入れることができず、いつまでも生産性の低い訪問&来訪、FAXや電話、丁寧なメールによるコミュニケーションに拘泥し続ける姿が目立つようになってきた。
これは一昔前に高齢者が「プリンタで印刷した年賀状」には感情が感じられないと批判していたのと同じ構図であり、若い世代も時が過ぎればいずれ新しい物事への取り組みが苦手となるのである。
そこで、地方中小企業にDX(デジタルトランスフォーメーション)を導入する担当者に紹介したいのが「ロジャースの普及理論(イノベーター理論)」である。DXなどの新しい働き方は、「イノベーター」「アーリーアダプター」が主なターゲットであり、地方中小企業はまだまだ普及段階にはないことを、担当者は頭に叩き込む必要があるからだ。
ロジャースの普及理論(イノベーター理論)概念図
クラウドサービス導入に消極的な人々は「レイトマジョリティ」「ラガード」に属し、最近では、「抵抗勢力」と呼ばれることもある。地方中小企業において真正面からDXを進めることは、抵抗勢力との全面戦争を選択することになるが、地方中小企業の主な働き手は「レイトマジョリティ」「ラガード」に属する中高年が多く、彼らを敵に回すと業務が回らなく可能性があるため、絶対に避けるべきである。
コムデックでは、2016年から経営者向けに日本マイクロソフトやサイボウズなど、著名な企業のエバンジェリストを招致して「クラウドを活用した新しい働き方を紹介するセミナー」を開催してきた。セミナーの目的は、クラウドサービスの販売ではなく、1人でも多くの経営者に「ク・ラ・ウ・ド」という単語を頭に叩き込んでもらうことだ。
クラウドサービスの導入によって「会社が良くなる」「生産性が向上する」と経営者を意識づけることで、導入を後押ししてもらい、次のステップで現場の方々に「便利になった」「楽になった」といった体験を積んでもらいながら、反発を最小限に抑えて、少しずつ継続的に進めていくことが重要なのである。
紙とEXCELが中心の企業には、導入効果を全社員が体験しやすいサービスであるチャットやWeb給与明細書などから始め、DX化を目指すよりも「デジタル企業を目指しましょう」と身近な便利さを体験させ、DXへの恐怖心を取り除くことが結果として改革のスピードを速めることになるのである。
■執筆者プロフィール

樋口雅寿(ヒグチ マサトシ)
コムデック 代表取締役 ITコーディネータ
1972年、三重県伊勢市生まれ。95年、国立鳥羽商船高等専門学校を卒業。地元系IT企業などを経て、97年、コムデックに創業に参画、11年に代表取締役に就任。