現在、情報教育促進のため小学校からプログラミングに関する教育が必修化されている。ITエンジニア不足が叫ばれるなか、小学校からプログラミングに触れる機会が設けられたことは、未来のITエンジニアの増加が期待でき非常に喜ばしい取り組みである。ITエンジニアとしても、この機会を最大限生かして国内のIT業界を盛り上げていきたい。
文部科学省が考えるプログラミング教育は、新学習指導要領で公開されている。
文部科学省の新学習指導要領
小学校でのプログラミング教育は、論理的思考を身につけるための学習活動であることが特徴である。一方で中学校や高等学校で学ぶ範囲は、プログラミングそのものが想定されているため、ITエンジニアが入社時に受けたプログラミングに関する社員教育と親和性の高い内容となっていることが理解できる。
このような学習範囲の授業を担当する教職員は、プログラミングの専門家でなく、授業時間も限られていることから学習効果が限定的になることが想像できる。プログラミング能力は、ITエンジニアとしての一つのスキルであるが、数カ月~数年の教育期間を設けた専門学校が存在するほどの難易度の高いスキルである。ITエンジニアとして業務に携わっていなければ、プログラミングやネットワーク、データベースなどの技術・スキルのIT業界での位置づけを理解することは難しい。
そのため、プログラミングを行うにあたり非常に大切な「仕様・設計書・試験」などの多くの基本的なことが抜けてしまった状態での教育になる可能性が高い。プログラミング能力だけではITエンジニアとしては一人前とはいえず、教職員だけに任せていては不完全なITエンジニアが多く輩出され、IT業界を混乱させてしまう懸念が少なからず存在する。
これら教職員が不得手とする部分に関して、ITエンジニアのフォローの必要性が非常に高い。文部科学省でも教職員のみでプログラミング教育を実施するには限界があることを認識しており「ICT支援員」という教職員をサポートする制度が存在する。この制度にITエンジニアが参画することによって未来のITエンジニアの養成に少しでもつながることが望まれる。ITエンジニアが、社員教育で受けたプログラミング教育や実務経験を生かす絶好の機会である。
公的制度への参画は、予算や資格・条件といったハードルが存在するため簡単ではない。そこで、他の支援方法として学外の活動について考える。昨今の社会的トレンドでは、TVよりもインターネットを活用しての情報収集がメインとなっている。そのことから、自社のホームページによる情報配信や動画サイトに教育動画の投稿といったことも有効な手段であると考えることができる。これならば、1人のITエンジニアでも十分に可能な範囲である。
フォローイメージ
日本のIT業界、特にソフトウェア関係は世界的に有名なIT企業に対して後れを取っている現状があり、世界最先端に早急に追いつくことが必須である。世界最先端の技術を持った企業に追いつき追い越すためには、まず、多くのIT人材を輩出することが重要となってくる。そのためには、幼少期からのIT関係の教育は非常に重要であり、既存のITエンジニアとしても多くの仲間を増やし、革新的な製品を世界に提供していくために教育に積極的に参画していくことが大切である。
■執筆者プロフィール

阿部伸治(アベ シンジ)
阿部伸治中小企業診断士事務所 代表 ITコーディネータ
1974年10月大阪生まれ。IT系専門学校卒業後、IT会社に就職。客先常駐でのソフトウェア開発で実務経験を積み、鉄道関連のメーカーに転職後、気象防災システムの開発責任者・メンバーとしてシステム開発の全工程に携わる。21年2月からITコンサルタントとして独立。