多種多様な機能を持つソフトウェアが多く公開されており、公開方法として「有料ソフトウェア」と「無料ソフトウェア」に分けることができる。有料ソフトウェアは、お金を支払ってソフトウェア購入もしくは開発するものであり、一般的な物販と同じ。無料ソフトウェアは「フリーソフト」とも呼ばれ、購入時や購入後に費用の支払いが不要のもの。サンプルやお試しソフトの場合もあるが、最近では有料ソフトウェアと機能が大差なく、十分な機能が充実しているものが多い。利用者にとっては、無料でソフトウェアが利用でき非常に喜ばしいが、ソフトウェアを開発したITエンジニアにとっては金銭面で苦しい立場となる公開方法といえる。フリーソフトを開発しているITエンジニアは、小規模グループや個人などの限られた経営資源で活躍している場合が多く、有料ソフトウェアとして品質保証の問題からフリーソフトとして公開する以外の選択が難しいケースも存在する。
有料・無料ソフトウェア料金支払いイメージ
フリーソフトは無料であるため、ビジネスや個人利用ともに幅広く活用されており、認知度を上げるには非常に有効な公開手段である。しかし、フリーソフトの認知度が上がることにより、ソフトウェアは無料もしくは安価なものであるという認識が根付いている部分がある。そのため、認知度はあるが市場規模を大きくすることができず、ITエンジニアによる給与水準の向上にも限界がある。IT業界においてITエンジニア人材の充実が課題であるが、フリーソフトの認知度が高いがゆえに若者がITエンジニアを目指したいと思いにくい状況にあるともいえる。
認知度の向上は大切であるため、業界全体として、フリーソフトという形態を維持しつつも、フリーソフトの開発者に対しても正当な対価が支払われるように取り組む必要がある。そこで、取り組みの一つとして「寄付」という対価の支払い方法について紹介する。
海外では寄付が当たり前のように実施されており、海外製フリーソフトに関しても寄付に関してドキュメントなどに詳細が記載されている場合が多い。日本製でも、寄付に関して明記されていることが増えてきたが、習慣が根付いていないため、海外よりは成果につながっていない。
フリーソフトの開発者に正当な対価を支払う新しい仕組みをゼロから構築することは現実的ではないが、今あるこの寄付の仕組みを、業界活性化のために業界関係者が積極に利用していくことが望ましい。日本でも40年ほど前まで医者や旅館に宿泊した場合などに「心付け」として感謝の気持ちを表していた習慣が存在していたため、それをフリーソフトで実施するイメージである。
寄付による対価支払いのイメージ
この習慣が根付き、寄付のみである程度生活可能な報酬が確保できるようになれば、若者が少なからずITエンジニアを目指すことにつながる。また、ITエンジニアが副業しやすい環境にもなるため、業界の活性化にもつながる。企業で活躍しているITエンジニアが離職した場合、IT業界から離れる可能性があるが、完全に業界から離れずにフリーソフトのITエンジニアとして残る選択肢があれば、業界としてもITエンジニアの減少を回避することができる。
フリーソフトへ寄付という形の積極的な対価の支払いを行い、業界の活性化やITエンジニア待遇充実に貢献することが可能なため、「寄付が当たり前のフリーソフト」へ業界関係者が積極的に取り組むことが望ましい。
■執筆者プロフィール

阿部伸治(アベ シンジ)
阿部伸治中小企業診断士事務所 代表 ITコーディネータ
1974年10月大阪生まれ。IT系専門学校卒業後、IT会社に就職。客先常駐でのソフトウェア開発で実務経験を積み、鉄道関連のメーカーに転職後、気象防災システムの開発責任者・メンバーとしてシステム開発の全工程に携わる。21年2月からITコンサルタントとして独立。