IoT、ビッグデータ、RPA、ロボット、AI。カタカナと略号は、ものづくりのエンジニアリング現場につきものだ。マネジメントの現場でも、IT化とともに業務改革レベルでSWOT分析やビジョン、マーケティングなど、外部環境や顧客視点での分析が必要になっている。両方の現場で、専門知が増えて互いの専門性に苦手意識が増えていく中で、いかにエビデンスにもとづいた共通言語をつくっていくかがIoT活用の重要ポイントとなっている。
IoTを活用するシーンとは?
IoTの活用シーンは、プロセスにおけるコスト削減や故障予測などのソリューション、もしくはプロダクトにおけるデータを活用した製品・サービスが主なものだ。
しかし、社内の生産ラインや業務プロセスの一部をIT化して効率化は進んでもプロダクトと組み合わせたIoTの活用については進めにくい。IoT活用が進まない理由のほとんどは、「利用場面が不明」であり、情報通信、流通・小売り、エネルギー・インフラ、製造業、農林水産業のほとんどの産業分野で共通となっている。さらに、サービス業においてはそもそもIoT活用の「効果に疑問」がある(2016年情報通信白書調べ)。
IoT活用のシーンは、データ利活用の観点において、「データの収集・蓄積」が主な活用シーンである。
データの利活用は、「データの収集・蓄積」「データ分析による見える化」「データ分析による予測(業績・実績・在庫管理など)」「データ分析の結果を活用した効率化」「データ分析の結果に基づく事業領域の拡大」と進展するため、何のどのようなデータを収集するかを見定められない場合、IoT活用は失敗しがちだ。
IoT活用はどこからとりかかるのか?
中小企業でよくあるのが、トップ判断でIoTを活用するためのコンサルタントが現場の聞き取りを行い、その報告を聞いたトップが投入タイミングを判断できずに導入延期となるパターンである。特に、目標を効率化・自動化・省力化に設定すると、なぜか人材不足を理由にIoTの活用は進まない。
確かに、今までの機器やITシステムの導入のやり方では、効率化・自動化・省力化による労働生産性向上やコスト削減において成果を得られた。なので、今までのように補助金を活用して、IoTを導入していけばいいとなってしまう。あるいは、その目標であれば、IoT導入にかかる時間と現場の負担を考えると、「人を増やしたい」「人材不足」というIoT活用にとりかからない悪循環へと陥ることになる。
実は、悪循環から抜け出す企業は、IoT活用の目標を「高付加価値化」に設定し、そこから今できることと、これからしたいことにつながる現場データの洗い出しからはじめている。
データ利活用の進展に沿ったエビデンスの構築
今できることやしたいことの洗い出しは、経営・生産・営業の現場ごとに課題のレベル感も違うし、同じ課題を捉えていても使っている用語が異なることが問題となる。そこで、データ利活用のプロセスを基準として、IT用語を共通言語ととらえ、各現場の専門知データをエビデンスとして観察・モニタリングする体制をつくることを勧める。
例えば、業務プロセスへのIoT導入はマーケティングデータとあわせてプロダクトへどのように展開するかの観点でデータをモニタリングする。また、新しいプロダクトへのIoT導入は、事業ビジョンやビッグデータの活用を踏まえてデータをモニタリングするのである。
このように、持続的な価値を生み出す企業は、経営サイドのみでIoT導入を計画せず、データを利活用する。目標や計画があいまいな状態でも、デジタル化・RPA導入の時点でデータ利活用をすることで、IoTの利用シーンや効果に気づくことができる。それは、工場長や営業部長のみではなく、経営責任者とほかの部門のエースも同席し、現場をつないで付加価値を生む体制がエビデンスベースで構築できているからである。
■執筆者プロフィール

村本睦子(ムラモト ムツコ)
ITコーディネータ
官公庁向けシステムエンジニア、まちづくり、6次化支援に携わる。現在、北陸先端科学技術大学院大学で博士後期課程の学生をしながら、顧客企業の新規事業やSDGs経営のコンサルティング、IT経営支援を行っている。