新規事業に向けた投資が加速する一方、社内に新規事業の人材・ノウハウが不足する中、新規事業の芽が摘まれてしまっているというのが実情だ。そこで、新規事業が失敗に陥る要因をひも解くことで、アイデアを事業に昇華し成功可能性を高める手法について、紹介したい。
まず、新規事業がなぜ失敗に終わるのか、スタートアップの失敗要因を分析した二つの調査からヒントを探っていく。
一つめの調査はCB Insightsが100社以上の失敗に終わったスタートアップの要因を分析したものだ。
失敗した4割は「マーケットニーズがなかった」
(出典:CB Insights「The Top 20 Reasons Startups Fail」)
調査によれば、スタートアップが失敗に終わった要因の最も多い理由は「マーケットニーズがなかった」というもの。これだけを聞くと「そもそもマーケットニーズがないものなどを、なぜ作るのか」と考えるかもしれないが、ニーズが顕在化しておらず既存のマーケットが存在しない新規事業を立ち上げる際は、往々にしてこの失敗に陥ってしまう。
また、3200社以上のスタートアップを分析した「Startup Genome Report」の中でも、失敗に終わったスタートアップの特徴を分析している。「事業を始める初期段階において優先したものは何か」という点を、成功したスタートアップと失敗したスタートアップで比較している。分析によれば、失敗したスタートアップは「課題の発見・検証の前にプロダクトの検証」を優先的に始めてしまうという。
失敗したスタートアップは課題の発見・検証の前にプロジェクトの検証を始めてしまう
(出展:Startup Genome Report Extra - Premature Scaling version 2)
課題の発見・検証をされた状態とは、「どこにいる、誰が、どんな課題を抱えているのかが特定されており、その課題解決に向けたニーズの強さを把握している状態」のことを指す。一方、プロダクトの検証とは実際にプロダクトを作り、さまざまな指標を測定することを指す。
リーンスタートアップの考え方が誤って浸透したことによって、課題の仮説検証を行う前に、MVP(Minimum Viable Product、顧客に価値を提供できる最小限のプロダクト)を作った上で、そこから改善策を考えるというケースが多く見られる。しかし、新規事業を始める時に、自分・自社が作りたいもの、もしくは思いついたものをすぐに作り始めることは、典型的な失敗のパターンといえる。
では、まず取り組むべきことは何か。それは「課題の発見・検証」だ。「その事業は、どこにいる、誰の、何の課題を解決するのか」「望んでいる人は本当にいるのか」「その人は、本当にそこに強い課題を抱えているのか」ということを、繰り返し問うことで、仮説をブラッシュアップし続けることが重要になる。
具体的には、まず仮説を設定した上で当事者や1次情報を持った人にインタビューしたり実際の現場を観察したりすることで、その仮説が正しかったのかを検証する。次に、得られた情報をもとに当初設定した仮説を変更・修正していくことで、より精度の高い仮説へと昇華させていくプロセスになる。
「起業の科学」田所雅之氏 監修新規事業創出に向けた顧客ニーズを掴むインタビューの取り組み方
(出典:ビザスク)
日本においても成功しているスタートアップ、例えばユニコーン企業として有名なSmartHRも、創業期にインタビューを実施し仮説検証を繰り返すことで、現在のビジネスモデルに辿り着いている。
「起業の科学」田所雅之氏 監修新規事業創出に向けた顧客ニーズを掴むインタビューの取り組み方
(出典:ビザスク)
新規事業を始める当事者は、自身のアイデアを盲目的に信じ、具体的なソリューションを磨き込みたくなりがち。ただ、その前に「どこにいる、誰の、何の課題を解決するのか」ということについて、繰り返し仮説検証をすることによって「ソリューションを作り上げた後に、世の中にニーズがなかった」という、時間と金の無駄を防ぐことが可能となる。
■執筆者プロフィール

宮崎 雄(ミヤザキ ユウ)
ビザスク 執行役員
横浜国立大学卒業。2006年にリクルートHRマーケティングに入社し、営業、新商品開発、リクルートホールディングス・リクルートジョブズの経営企画部門の責任者として従事。19年3月、ビザスクに参画、CEO室長とビザスクlite事業部長を兼任し法人向けマーケティングの立ち上げとビザスクliteの成長を推進。22年3月、法人事業部事業部長。