1998年以来24年ぶりの円安更新、進むインフレと物価上昇、多くの経済的課題を抱える現在の日本において、地方の行政や中小企業を取り巻く地方経済は、慢性的な人材不足、進まないDXなど、さらに多くの課題を抱えているが、解決策の一つの手段として新たな人材活用を紹介する。
コロナ対策が進み、少しずつ経済活動が活発化する中で、中小企業でもさまざまな施策が実行されているが、その一つとしてDX(IT活用による生産性の向上など)を推進する企業が増えている。しかし、地方の中小企業は、DXを推進するための人材不足、知識不足を抱えており、それらに対する明確な解決手段を持ち合わせていない。
デジタル化の取組段階と取組状況
(出典:中小企業庁「2022年版 中小企業白書・小規模企業白書概要」)
行政はさまざまな形で「DXを推進するための補助金」を制度として設けているが、実情としては、単なるIT資産の購入、という使われ方も多く、企業が抱える本質的な課題に対しての「打ち手」となるようなDX推進には至っていない現状がある。背景には、企業の中に課題を整理し、課題を解決のためのDX戦略を考えることができる人材が不足している、というものがある。
そのため、目先の目標や課題解決のためのIT導入に走ってしまい、「ビジネスモデルの変革」や「新規事業創出」、さらには「社員の意識改革につながるような本質的な改善」など、まさにD(デジタル)を活用したX(トランスフォーメーション)の「X」部分への活用ができていない現状がある。
そんな中、課題を解決するために積極的に外部の人材や知見を活用していこうとする地方の行政・中小企業が出てきている。一例として、鳥取県で2021年度に実施した「県内企業 DX 伴走支援事業」を紹介する。
この事業は鳥取県内の中小企業を対象に、生産性向上や商品・サービスの付加価値向上など、ICTを活用した経営課題解決に専門家の協力を得ながら取組む企業を支援する、というもので、「DX推進に興味はあるが、自社だけでは人材も知見も不足しているので進めることができない」という企業を数社選定し、それらの企業に対して、鳥取県から委託された外部業者経由でIT導入や業務改善など、それぞれの専門性を持つスペシャリストをマッチング。約3カ月間に渡り、企業における課題整理と解決策としてのIT活用などを企画・実行の支援をした。今年度も同様の事業を実施することが、このほど発表された。前年度より支援企業数を拡大し、さらに多くの企業のデジタル化を支援する見込みである。
事業の流れ
(出典:2022年度 鳥取県×ビザスク 伴走型県内企業デジタル化・DX展開モデル創出事業)
伴走支援期間が約3カ月ということで、短期間ではあったものの、自社社員だけでは進めることができなかった業務の可視化、課題の優先順位付け、それに対応したIT活用施策の検討と実行、を進めることができたことはもちろんの成果だが、「IT活用を難しく考えていたけれど、自分たちの会社でも進められることがわかった」と、DX推進に対する社員の意識改革を一番の成果に上げる参加企業も多くあった。
現在、鳥取県の事業と同様に地域企業のDX推進や新規事業創出、といった目的で外部の人材や知見を活用する行政が増えており、埼玉県戸田市でも今年度の取り組みとして、市内企業に対してDX伴走支援事業を行うことを公表しており事業パートナーとしてビザスクが採択された。
鳥取県の事例では、自社・自地域の人材だけではなく、積極的に外部の人材と知見を活用することで、ハードルが高いと思って諦めていたことに対しても取り組むことができ、さらには「社外の専門家が改善に向けた助言を行う」ことで、社員の意識改革にもつながった、という学びがあり、今後の地方経済のさまざまな課題解決を進めるための有効な手段であると感じた。
一方で、「大手企業や有名企業の人が支援に入ってくれる」という表面的な判断での活用だけでは上手くいかないことも多く、ただ地方経済が消費されてしまう可能性もあるため、地方行政も中小企業の経営者も、「本質的に地方経済や自社課題に向き合い、目線を同じくして課題解決に取り組んでくれる外部のスペシャリスト」を探し、活用することが必要であると考える。
■執筆者プロフィール

草野琢也(クサノ タクヤ)
ビザスク partner事業部事業部長
日立ソリューションズでシステム構築、プリセールスに従事した後、パソナに転職。人材紹介事業で法人営業、キャリアアドバイザー、マーケティング業務を経験。2013年、新規事業開発に携わり「顧問紹介サービス」を立ち上げ、19年10月にパソナ顧問ネットワークとして分社。執行役員として営業、マーケティング、広報などを担当。20年8月、ビザスクに入社。実働型の伴走支援サービス「ビザスクpartner」、社外役員マッチングサービス「ビザスクboard」を立ち上げる。