昨今のIT業界は、人手不足であり数多くの求人募集が存在する。過去においても同様の状況であり、今後もこのような傾向が続くことが十分に予想される。ITは全業界で必須の技術であり、経済発展の観点からも人手不足は課題である。そこで、この課題に対する対策として、IT業界をより魅力あるものにすることによって、解決する方法をいくつか提言する。
求人募集が多い業界ということは、求職者にとって非常に魅力がある業界といえる。しかし、IT業界で仕事を行うにはITに関する知識やスキルが必須であり、未経験の求職者には非常に厳しい業界である。この部分が求職者にとって参入の障害である。この障害に対して、国家レベルでも対策が考えられており、義務教育からプログラミング授業が組み込まれ始めている。IT業界としても喜ばしい傾向である。
既存のITエンジニアも、この国の方針に従い可能な限り教育に参画し、自らの力で人手不足解消に寄与していくことが期待される。教育関係の仕事に参画する機会のあるITエンジニアは、将来のITエンジニア候補となる人材にIT業界の「魅力・面白さ」を伝えていくことで、若手ITエンジニアの育成につながっていくことが望まれる。
業界の魅力を図る基準は多数存在するが、企業が市場規模や予想売上といった「お金」を基準として考えることと同様に、ITエンジニアにとっても業界での報酬水準は非常に重要である。IT業界の報酬は、他のエンジニア系の業種に比べて特別高いというわけでもなく、人手不足の状況を考えると、報酬面での待遇改善も必要である。
しかし、個々の企業が個別にITエンジニアに対して報酬面での改善を行うことは資金面の関係から難しい部分がある。そこで、企業としては、個々のITエンジニアが自社以外で活躍できるように副業に関して積極的に導入を推進し、業界全体としてITエンジニアに対して報酬が向上するように取組む方法がある。エンジニアに対して自由に仕事に取り組んでもらい、自らのスキルを利用して報酬の向上を自ら行ってもらうのである。
副業を許可した場合、技術漏洩が懸念されるが、ルールを明確にすることによりも十分に対応可能である。特に、企業のコアとなる部分を担当する従業員を限定し、コア担当の従業員に対しては副業活動を限定的にすることにより、技術漏洩のリスクを大幅に軽減することができる。ただし、コア部分を担当する従業員には、通常の従業員よりも多くの報酬を支払う必要がある。
経験則になるが、優秀なITエンジニアであればあるほど、自分が成長できる環境に身を置くことを望む傾向にある。この観点から離職率を逓減させる方法を考える、自分の成長を望むITエンジニアは、多少報酬面での不満が存在した場合でも、自分のスキルアップが可能な環境であれば、離職を踏みとどまる傾向にあった。
スキルアップできる環境とは、「新設計手法を試せる」「新ハードウェアを扱える」「未経験開発工程に携われる」などである。スキルアップできる環境を報酬の一部と考えているのである。この観点を活用し、報酬面でも副業面でも提供が難しい企業は、スキルアップできる環境を常に提供し続けることにより離職率をある程度、逓減させることが可能である。
魅力あるIT業界にするためのイメージ
魅力あるIT業界にするための提言をいくつか行ったが、一つでも多くの取組を業界として行っていくことで、IT業界全体の発展につなげることができると強く考える。個々のエンジニアも含めてIT業界に携わるもの全員が、IT業界発展のため多様な取り組みを実施していくことで、大きく魅力あるIT業界に発展していくことを強く望むものである。
■執筆者プロフィール

阿部伸治(アベ シンジ)
阿部伸治中小企業診断士事務所 代表 ITコーディネータ
1974年10月大阪生まれ。IT系専門学校卒業後、IT会社に就職。客先常駐でのソフトウェア開発で実務経験を積み、鉄道関連のメーカーに転職後、気象防災システムの開発責任者・メンバーとしてシステム開発の全工程に携わる。21年2月からITコンサルタントとして独立。