2021年6月、東京証券取引所(東証)はコーポレートガバナンス・コードの改訂を公表した。コロナ禍において企業経営がさまざまな課題に直面する中で、上場企業は持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するための指標として、その対応を求められているが、今回はその中でも独立社外取締役に求められる能力や役割と、現在の各企業の対応状況の実態について紹介する。
そもそもコーポレートガバナンス・コードとは何か。東証は「本コードにおいて、『コーポレートガバナンス』とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する」 と定義しているが、簡単にまとめると「株主、顧客、従業員、地域社会など、さまざまなステークホルダーとの関係を踏まえた上で、会社が公正かつ迅速な意思判断を行うためのガイドラインとなる原則・指針」のことを指している。
21年6月の改訂の主なポイントについては、「取締役会の機能発揮」「企業の中核人材における多様性の確保」「サステナビリティを巡る課題への取り組み」の三つが挙げられる。それぞれの内容をまとめるとこうだ。
取締役会の機能発揮は、(1)プライム市場上場企業は、独立社外取締役を3分の1以上選任、(2)指名委員会、報酬委員会の設置、(3)スキルマトリクスの開示、(4)他社経営経験者の独立社外取締役へ選任。
企業の中核人材における多様性の確保は、(1)管理職における多様性(女性・外国人・中途採用者)について自主目標の設定と開示、(2)多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針・実施状況の公表。サステナビリティを巡る課題への取り組みについては、(1)サステナビリティについての基本的な方針の策定と自社取組みの開示、(2)プライム市場上場企業は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の枠組みに基づく気候変動の影響開示、となる。
当社では、さまざまな企業からの社外取締役・監査役に対する相談や紹介ニーズに対応するため、社外取締役・監査役候補者のマッチングサービス「ビザスクboard」を提供しているが、今回のコーポレートガバナンス・コード改訂以降、企業からの相談件数が倍増しており、その多くは「これまでの経営体制では、今回の改訂のポイントが遵守できておらず、今後その対応が必要になってくる」というものであった。
では、実際に企業からのニーズはどのようなものであったか、いくつか紹介すると、(1)女性の経営経験者、(2)グローバルでの経営経験者(外国人もしくは日本人でグローバル企業出身者)、(3)DX(デジタルトランスフォーメーション)推進経験者、(4)新規事業開発の経験者(大企業もしくはメガベンチャーでの新規事業開発経験者)、(5)事業会社におけるM&A、投資戦略立案経験者、などとなる。
女性の経営経験者とグローバルでの経営経験者については、企業の中核人材における多様性の確保に対応するニーズである。特に女性の経営経験者については、日本の上場企業における女性役員数は21年7月時点で3055人と、12年からの9年間で約4.8倍と増加しているものの、諸外国の女性役員割合と比較すると、まだかなり低い水準にとどまっている。
上場企業の女性役員数の推移
(出典:男女共同参画局「女性役員情報サイト」)
諸外国の女性役員の割合
(出典:男女共同参画局「女性役員情報サイト」)
その要因は担い手(社外取締役候補者)が圧倒的に不足しているからだが、各社採用には非常に苦戦しており、女性で経営経験がある場合は、早い時期に声がかかる、ある意味「奪い合い」の状況が続いている。従って、これから採用を検討する企業は、できるだけ早い情報収集と当社など紹介事業を行う会社への相談が必要になっている状況といえる。実際に、3月決算6月株主総会の企業の場合は、前年の10月ごろから採用活動を行う会社も増えてきたと感じる。
また、DX推進経験者、新規事業開発の経験者、事業会社におけるM&A・投資戦略立案経験者は、取締役会の機能発揮における、スキルマトリクスの開示と他社経営経験者の独立社外取締役へ選任、企業の中核人材における多様性の確保の、管理職における多様性に起因するニーズといえるが、プライム市場上場企業においても、いまだ本格的なDXが進んでおらず、コロナ禍においてその対応を迫られている企業も多く存在し、そういった企業から相談が多くある。
これまでの社外取締役採用の相談では、例えば東証一部上場企業であれば、同じく一部上場企業での経営経営経験を必須とする企業が多くみられた。しかし、この改訂以降は「メガベンチャー、スタートアップでの経営経験者で30~40代」など、これまでの採用基準とは大きく変更し「新たな風を自社内に吹き込みたい」という意図で社外取締役を検討する企業が増えてきた。
今後、ますます不透明感が漂う市場において、企業経営の難易度はさらにあがっていくことが予想されるが、コーポレートガバナンス・コードへの対応を「やらなければいけないルールだから」と保守的に捉えるのではなく、「経営を大きく変革するチャンス」と捉え、その一つの手段として、自社の社外取締役の今後の体制や採用について検討をしてみることをおすすめしたい。
■執筆者プロフィール

草野琢也(クサノ タクヤ)
ビザスク partner事業部事業部長
日立ソリューションズでシステム構築、プリセールスに従事した後、パソナに転職。人材紹介事業で法人営業、キャリアアドバイザー、マーケティング業務を経験。2013年、新規事業開発に携わり「顧問紹介サービス」を立ち上げ、19年10月にパソナ顧問ネットワークとして分社。執行役員として営業、マーケティング、広報などを担当。20年8月、ビザスクに入社。実働型の伴走支援サービス「ビザスクpartner」、社外役員マッチングサービス「ビザスクboard」を立ち上げる。