近年、外食業界では紙のアンケート用紙のシステム化が進み、インフルエンサーを使った施策が盛り上がりを見せ、Googleビジネスプロフィール(GBP)でのレビューに力を入れるなど、「口コミ」対応が加速している。今回は外食業界の「口コミ」に対するアプローチを紐解きながら、DX化アプローチの余地について提示したい。
過熱する外食業界の「口コミ」
YouTubeやInstagram、TikTokなどで活躍するインフルエンサーは外食業界でも積極的に活動をしている。数十万以上のユーザーを抱えるメガインフルエンサーだけでなく、フォロワーが数千人程度のナノインフルエンサーからマイクロインフルエンサーまで積極的に店舗の集客に利用されている。その背景には店舗とインフルエンサーをマッチングするサービスが増えたこともある。
スマートフォンで地図から店舗を選ぶシチュエーションは多く、GBPの対応は欠かせない。GBPを一元管理するツールや上位表示のためのサービスも増えている。特に「レビュー」や口コミは集客への影響も強く、低い点数を付けられ、食事やサービスなどに辛辣な口コミを書かれると来店を控えるユーザーも出てきてしまう。
店舗アンケートはハガキではなく、2次元バードコードが主流だ。2次元バーコードからアンケートフォームにアクセスし、質問に回答して必要事項を記入して送信する。蓄積されたデータはマーケティングや店舗の評価に使われるだけでなく、オウンドメディアで点数やコメントが掲載されるとともに、構造化されたデータは検索結果にも星印の点数として表示され、さらなる集客を後押しする。
口コミは、集客施策の1つとして欠かせないものとなっている。
「DX化の推進=口コミ(点数)の改善」では決してない。
外食業界では店舗のDX化が進み、店内モバイルオーダーやテーブルトップオーダーで端末から自分で注文をし、配膳ロボットが運んでくる。オーダー管理や発注、スタッフ管理もシステム化され、AIの導入も進んでいる。それによって、少ないスタッフでの店舗運営や精度の高いマーケティング等を実現している。しかし、今まで「人」がやっていたことが「システム」に変わることで、マイナスのイメージで捉える人もいる。
「今日のオススメは?」などのちょっとしたスタッフとの会話が好きだったという層もいて、DX化によって必ずしも口コミが良くなるとも限らない。「システムが使いにくい」という理由によって評価が下がるケースもある。
顧客が「店舗に何を期待しているのか」、その芯を外すことなくDX化をしなくてはならない。
本当の「口コミ」を見定める必要がある
点数という定量的な評価も重要だが、定性的なコメントには店舗運営の改善につながるヒントがたくさんある。口コミとして書き込まれることにはそれなりの理由がある。「GBPやオウンドメディアに掲載されている内容と実際が違った」という書き込みがあれば、運用とチェックのやり方を見直す必要があるし、「料理の味が薄い」「料理がなかなか出てこない」「サワーが薄い」とあれば料理や調理、オペレーションに課題があるはずだ。「スタッフの態度が悪い」「スタッフがマスクを外しているが気になる」などは、スタッフの教育を見直すことも検討した方が良い。
しかし、全ての口コミが「正しい」とは限らない、ということは一般ユーザーも店舗側も忘れてはならない。
口コミにはインフルエンサーによる投稿、競合による嫌がらせ、特典目当てでうわべだけのものも混ざっている。「良い口コミ」をそのまま鵜呑みにすると、店舗の課題が見えてこなくなってしまう危険性がある。店舗が本来向き合うべき口コミを見定めなくてはならない。
店舗の“これから”を指し示す源泉は「口コミ」にある
さまざまな施策を駆使して良い口コミを増やしたとしても、店舗の実際がそれに見合っていなくては、本当のユーザーの声によって次第に評価は下がっていく。本当の口コミを無視し、店舗運営を見直さなければ、中長期的には顧客は店舗から離れていき、売り上げは落ちていく。顧客の声に真摯に向き合うことなしに、店舗の未来は描けない。
システムを理由に顧客を失わないように、店舗都合だけによるシステムやサービスの導入には慎重になるべきである。店舗の特徴や立地条件、顧客層などを考慮し、店舗が“変えても良いこと”と“変えてはいけないこと”を見極めることが大切だ。DX化の推進と共に店舗が本来向かい合うべき課題を抽出し、その改善を推進していく、その源泉は口コミである。店舗が口コミに向き合いながら成長していくのであれば、システムは顧客と一緒に店舗を寄りそっていくべきだ。そこにDX化のヒントがあるのではないだろうか。
■執筆者プロフィール

左川裕規(サガワ ヒロキ)
イデア・レコード 取締役
早稲田大学卒業後、広告会社へ入社。マーケティングプランナーとして従事。家電メーカーや大手通信会社、商業施設などのプロモーション戦略や、Webサイト構築を担当。その後、NRIネットコム(現)に入社。WebテクノロジーとUXの設計構築コンサルタントとして、大手証券会社のWeb戦略、国内流通産業大手のインターネットマーケティング戦略、ネット損保のWebプロモーション戦略に参画。2016年、イデア・レコードに入社。