コロナ禍における緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの取り組みは外食業界に大きな影響を及ぼし、街で閉店となる店舗が増えた。一方、新店オープンや別の業態(店舗のジャンル)への転換も目立つ。今回は、コロナ禍における業態の変化とそれに対するDX化のアプローチの余地を提示する。
コロナ禍における業態の変化
居酒屋を中心とした上場企業11社が公開しているIRレポートをもとに2020~22年における店舗数の推移を集計すると、店舗数合計は1割近く減少。「居酒屋(低価格帯)」「居酒屋(中価格帯以上)」は2割程度減少している。「食事(低価格帯)」「食事(中価格帯)」は増加傾向にあり、特に「食事(低価格帯)」は4割強増加。「食事(高価格帯)」「その他」は微減という結果になった。なお、「中食/テイクアウト・デリバリー(ゴーストレストランを含む)」は、大きく店舗数を増やしていることは明らかであるが、ゴーストレストランなどは店舗数のカウントが難しいため、集計していない。
コロナ禍において営業時間が短くアルコールも出せない状況下で、居酒屋は苦戦を強いられた。補助金をもらったとしても存続が難しい店舗については閉店が続き、アルコールなしでも成立する食事を中心とした業態への転換が進んでいることが伺える。ランチ帯まで営業時間を延ばしたほか、定食メニューを充実させて食事メインでアルコールも楽しめるというハイブリッド的な店舗も増えている。
また、焼肉の食べ放題など、定額コースをメインとした食事業態は好調で店舗数を伸ばしていたが、直近では食材価格の高騰によって食べ放題を続けられなくなる店舗も出てきており、さらに転換が進んでいくことが予想される。
業態の変化に対するDX化アプローチのヒント
コロナ禍においても集客に成功して繁盛し、少ないスタッフでも顧客満足度を損なうことなくオペレーションが可能な店舗もある。
居酒屋と食事をメインとした業態について求められる業務
業態の特徴によって店舗運営の勝手も変わってくる。例えば、総合居酒屋から食べ放題を中心とした業態に転換をした場合、「ウォークイン(予約なしの直接来店)が増えたため、ピークの時間帯では順番待ちを管理しなくてはいけない」「食べ放題メニューの注文が多く、オーダー管理や調理のオペレーション負荷が高い」「忙しい時間帯に限ってテイクアウト/デリバリーのオーダーが多く、注文が入ったことに気が付けない」「会計をするお客様やテイクアクト/デリバリーのお客様・ライダーなどがレンジに並んでしまい、混雑してしまう」などが起きる。
そのような中、店舗運営では「効率性の追求」「自動化の対応」「代替手段の提供」「新規対応」の四つが期待され、そこにDX化の余地がある。効率性の追求とはいかにスムーズにできるか、自動化の対応とは人でなくても良い業務は人以外で対応すること、代替手段の提供とは今までとは違うやり方での対応が求められること、新規対応とは今までやらなくても良かったが新しくやらないといけなくなった業務を指す。
また、外食業界では特にITリテラシーが低かったとしても使える、バタバタとした状況でも間違えずに使えるというのは欠かせない。DX化が進んでいる状況ではあるが、上記の視点に欠けたものは結局使われないまま放置されてしまう可能性が高い。
いかに店舗と同じ目線に立てるか
外食業界はコロナ禍にも適応し始め、業態も進化を続けている。それに伴い、店舗運営に求められることも変わり、課題が浮き彫りになってきた段階といえる。しかし、机上の空論だけで作ったものは実運用には耐えられない。いかに店舗で実際に運用する方と同じ目線に立ってDX化を推し進められるか、そこが最も重要である。
■執筆者プロフィール

左川裕規(サガワ ヒロキ)
イデア・レコード 取締役
早稲田大学卒業後、広告会社へ入社。マーケティングプランナーとして従事。家電メーカーや大手通信会社、商業施設などのプロモーション戦略や、Webサイト構築を担当。その後、NRIネットコム(現)に入社。WebテクノロジーとUXの設計構築コンサルタントとして、大手証券会社のWeb戦略、国内流通産業大手のインターネットマーケティング戦略、 ネット損保のWebプロモーション戦略に参画。2016年、イデア・レコードに入社。