これまで4回に渡ってIoTデバイス「ナノコン」をそれぞれ各種紹介してきたが、改めてナノコンとは、小型、バッテリ駆動、モジュール化され容易に取り扱えるデバイスをモバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)で、ナノコンと定義したものである。
サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合したSociety 5.0社会では、IoTで全ての人とモノがつながり、5GやAIといった先進技術で様々な知識や情報がリアルタイムに共有され、今までにない新たな価値を生み出すことが期待されている。改めてそれを現実のものとするために、ナノコン応用推進WGではこれまでさまざまなことに取り組んできた。
また、各企業はビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立するために、DX(デジタルトランスフォーメーション)をスピーディーに進めていくことが求められている。
一方で、PoC(Proof of Concept)からビジネスにつながらないといった悩みがよく聞かれる。その原因の一つとして考えられるのは、顧客視点でどのような価値を生み出すのか、「What」が語られておらず、ともすると「〇〇を使ってやれ」の号令で、「How」から入ってしまっていることにある。
ナノコンはIoTのためのモジュール化されたデバイスであり手段のHowの一つではあるが、これまで課題やアイデアのWhatがあっても、専門性の高い知識や専用のハードウェアが用意できなければ試作すらできなかったことが、例えばナノコンの代表例としてトリリオンノード研究会が研究開発を行っている「Leafony」は、基板ごとにIoTに必要な基本的機能がそろっており、ハードウェアが苦手な人も含め、多くのアイデアを簡単に形にすることができ、またそれぞれの基板は1円玉サイズの超小型であるため、さまざまなモノにも容易に組み込むことができる。
その結果、誰もがIoTビジネスで重要となるデータ収集・解析なども含めたPoCを早期に取組み、課題解決の実証やアイデアを実現することが可能となった。またLeafonyはオープンで技術情報もソースコードも開示している。
既に、大学や専門学校といった研究・教育現場での活用も広がっており、限られた授業の時間内で学生が持っているアイデアをスムーズに形にできたり、実際の研究に高精度なセンサーとして活用し成果をあげたり、さらには大学構内のバス停や食堂などに設置して混雑状況の確認ができるようにし運用していたり、多くの成果が報告されている。
2018年に発足したナノコン応用推進WGは、トリリオンノード研究会と共に活動したこの4年間で多くの事例紹介とともにハンドブックを3巻発行しており、勉強会やナノコン応用コンテストの企画・実施などを通して専門性を持たない層に対しても普及活動を進めてきた。その結果、3回目となる今年度のコンテスト応募では、幅広く新たな分野からも多くの素晴らしい応募があった。
2022年度ナノコン応用コンテスト参加メンバー
近年では、サイバーもフィジカルもその世界の境目を意識することはないメタバースも着目されている。境目を意識させないためにはフィジカル空間の情報を収集する手段として、またデジタルツインのフィジカル空間をコピーしてサイバー空間を再現する手段として、超小型で低消費電力なナノコンは重要なデバイスの一つとなる。
開発環境のノーコード化なども含めて、誰もがそのアイデア実現のために簡単に使えるIoTの民主化を目指し、様々なナノコンデバイスの提供や技術情報の開示など、幅広い層への周知・普及、さらには人財育成をトリリオンノード研究会と共にMCPCナノコン応用推進WGは活動していく。
■執筆者プロフィール

南日 俊彦(ナンニチ トシヒコ)
MCPCナノコン応用推進WG メンバー
成蹊大学大学院工学研究科電気専攻修了後、東芝に入社し、ファクシミリ開発、携帯電話開発・商品企画、映像新規事業企画、半導体技術マーケティングなどに従事したのち、現在東芝テックCVC推進室にてスタートアップ企業との協業業務など担当。