10月28と29日の2日間、「ウェブ解析士協会が主催で【WACA主催】珠玉の10分間×100 絶対に見逃せない!デジタルマーケティング人材育成セミナー」というイベントが開催された。100人の識者が各10分話すというものであるが、司会をしていた筆者は「デジタルマーケティング」という分野の幅広さを強く感じた。特に印象的だったのは登壇者の1人が「Placeから考える」と4Pの概念の変換を求めたプレゼンであった。マーケティングは「デジタル」という要素を抜きにしては成り立たなくなっている。顧客のほとんどが製品やサービスの接点を「デジタル」に持っているからで、その接点、つまり4PのPlaceが変化し、しかも顧客は各種の接点を行き来しながら企業とのエンゲージメントを深める。「購入」は顧客との関係構築の通過点にすぎないという考え方が必要である。
コロナ禍前の例であるが、とある酒販小売店は、一般消費者に酒を販売していたが、あるとき「乾杯チャリティー3万人」というイベントを開催した。時間を決めて、参加者がそれぞれの場所で一斉に乾杯し、その画像を公式SNSにアップし、ハッシュタグを付けて投稿すると、移っている人数をカウントして「人数×100円」を児童養護施設に自転車としてプレゼントするという企画である。
当初1万人を目標にしていたが6000人しか参加されず、3年目でようやく1万、その後2万、3万と目標が大きくなってきたが、2019年に達成した。消費者は「自分が乾杯するだけで100円を寄付した」という意識になり、その酒販店を好きなるが、元々住宅街の店舗が多く繁華街での業販に苦戦していたその企業は、「参加店舗」としての飲食店を紹介することで飲食店と関係を持つことができ、その後の販売に生かせた。SNSというデジタル空間の中でプレゼンスを発揮した事例である。
業務用のトイレットペーパーという、およそSNSに馴染まない業種でコンサルをしたとき、社内からのアイデアで「オリジナルイラスト付きのトイレットペーパーをただ引き出す画像をInstagramに上げる」という案を採用し、人気アカウントになった。そして展示会場などで「おもしろい試みですね」と声をかけられるようになり、その後の商談のきっかけになったという。
北海道にあり、日本全国にフィールドマンのいる農業用機械のメーカーは、据え付けの業務報告「動いている農業機械」の動画をそのままYouTubeに載せ、大きな再生回数を稼ぎ、そのメーカーの製品は全国で有名になった。タクシー会社の運転手が踊るTikTokは有名だが、単に営業マンの日常をどんどん発信するTwitterもあり、採用を有利にしている。
このように「どこで」「誰と」接点を持つかを考え、入念に計画して実施するのではなく、「とにかく始めてみて効果を確認しながらリソースを割く」という方針が、今のデジタルマーケティングの施策に必要な考え方である。
■執筆者プロフィール

積 高之(セキ タカユキ)
京都積事務所 代表 ITコーディネータ
広告・ブランディングの職務を経験後、コンサルタントとして独立。大手子供服SPA,酒販小売業チェーン、保険代理店などの顧問・コンサルタントを歴任。ITだけでなく小売業・広告業の実務経験を通じ、リアルビジネスのマーケティングをベースにしたコンサルティングのノウハウを持つ。関西学院大学専門職大学院 先端マネジメント研究科(後期博士課程)在学中。経営管理修士(MBA) 関西学院大学大学院経営戦略研究科卒。チーフSNSマネージャー、上級SNSエキスパート、上級ウェブ解析士などの資格も持つ。