現代のマーケティングでは、まず前提として「ある顧客層に対して製品なりサービスの内容を伝達し、購入してもらう」という、狙い定める「狩猟型」のマーケティング手法が顧客側から徐々に敬遠され始めていて、自社やブランドの姿勢や目的を知ってもらい、ファンになってもらった上で商品を理解してもらい、できれば購入してもらって購入後も関係を続けるという、顧客とともに成長する「農耕型マーケティング」が主流になってきている。これには、さまざまな要因や時代背景があるが、大きな要因の一つがスマートフォンの普及だ。製品情報に触れたとき、顧客はすぐに手元のスマートフォンで製品や企業のことを調べる。購入したり利用したりしたら、それをSNSなどで拡散し、他の顧客はそれを見て行動を決めたりする。企業が発信する情報よりも信頼性が高いからだ。
ファンマーケティング
既存顧客をファン化して継続利用してもらい、中長期的に安定した収益を確保するためのマーケティングとして「ファンマーケティング」がある。新規顧客に商品を使ってもらうためには、既存顧客に使ってもらうよりも5倍のコストがかかるといわれている(1:5の法則)。マーケティグの効率だけを考えても、既存顧客へのアプローチが合理的だが、ファンマーケティングではさらに進めて、企業やブランドの熱狂的なファンを生み出すことに注目する。
もちろん、顧客本人の継続利用を促すことが第一の目的で、熱狂的なファンを作ることができたら、そのファンは他の顧客への伝達媒体になり得る。そのため、SNSでの交流や、会員制サービスなどを充実させて既存顧客との関係を続けていくことが重要となる。
エンゲージメント
特にデジタルマーケティングで重要な概念だが、例えばWebサイトは顧客にアクセスしてもらっただけでは顧客との関係性を構築したとはいえない。広告なども、単に告知しただけでは効果が少ない。関係性を築くはずのSNSでも、表示されただけでは一方向のプロモーションにすぎない。顧客にもう一歩進んだ行動を促した結果、得られるのが「エンゲージメント」だ。
文字通りの意味では「婚約」「誓約」「約束」「契約」、マーケティングで「深い関係性を持ったつながり」、デジタルマーケティングでクリックやシェア、購入などが含まれる。注目すべきは、「購入」がエンゲージメントやファンマーケティングの終点ではなく、あくまで顧客との関係の「起点」であるということである。
サービスドミナントロジック(「S-Dロジック」「SDL」)
2004年、米国のマーケティング研究者であるロバート・F・ラッシュとスティーブン・L・バーゴ(Vargo & Lusch)によって提唱されたマーケティング理論がサービスドミナントロジック(「S-Dロジック」「SDL」)で、「全ての経済活動はサービス活動である」という考え方だ。これを理解するには、対照的な考え方で長い間マーケティング感覚を支配してきた「グッズドミナントロジック(GDL)」を考えてみるといい。
一つの製品を思い浮かべてみよう。例えば、「ジューサー」は果実を絞る機械で、この製品を顧客が購入したとき、何に対して対価を払ったのか。「ジューサーという製品を所有すること」ではない。当然ながら、「自分で絞ったジュースを飲む(または飲ませる)」ことに対価を支払っている。ジューサーという製品の所有権の移転に価値を感じるのが「GDL」、その結果得られることに価値を感じるのが「SDL」ということになる。
データドリブン
もう一つ重要な考え方が、データを利用したマーケティングや経営手法「データドリブン」だ。顧客を「ファン化」するまでには「集客」「見込み客化」「顧客化」「顧客維持・優良顧客化(ファン化)」というプロセスがある。そのフェーズのアクションには数多くの選択肢があり、しかも顧客の属性や行動も多岐に渡る。そのため、「狩猟型」の「狙い定める」という前提が成り立たなくなってきているのだ。
そしてデータの収集やその分析をする技術の発達を受けて有効になってきているのが、「データドリブンマーケティング」だ。ファン化する各段階で収集するデータをもとに、これまでマーケティングの方策を決めて意思決定していくことがオンラインで当然のように行われてきたが、最近ではオフラインのデータ収集も活発になってきているため、データドリブンマーケティングが主流になってきている。
■執筆者プロフィール

積 高之(セキ タカユキ)
京都積事務所 代表 ITコーディネータ
広告・ブランディングの職務を経験後、コンサルタントとして独立。大手子供服SPA,酒販小売業チェーン、保険代理店などの顧問・コンサルタントを歴任。ITだけでなく小売業・広告業の実務経験を通じ、リアルビジネスのマーケティングをベースにしたコンサルティングのノウハウを持つ。関西学院大学専門職大学院 先端マネジメント研究科(後期博士課程)在学中。経営管理修士(MBA) 関西学院大学大学院経営戦略研究科卒。チーフSNSマネージャー、上級SNSエキスパート、上級ウェブ解析士などの資格も持つ。