BtoBの、特に製造業の方と話していると、自社の技術や製造能力については熱く語られるが、実際にそれが市場の何に対してマッチしているのかが理解できないケースがよくある。マーケターはまずフレームワークを使って、市場や環境、自社の立ち位置などを分析して考えるが、これはもう癖のようなもので、どんな事象を見ても自然に出てくるのだか、技術者には分かりにくい思考回路かもしれない。
デジタルマーケティングを考えるにしても、基本になるフレークワークの理解と考えるプランをそれに当てはめてみる、またはフレームからプランを導き出すことは非常に重要である。フレームワークを使うことで、MECE(「もれなくダブりなく」という意味で、これもフレームワーク)に考えをまとめることができ、ステークホルダー同士の共通言語にもなる。
また、そもそもの事業ドメインを確定するためにも有効なので、今回はフレームワークについてまとめるが、その前に「事業ドメイン」について説明する。
事業ドメインとは?
事業ドメインとは「誰に」「何を」「どのように」の三つの点を考えて「その事業を行う領域」を考えることである。技術力や生産能力は、この要素を構成するさらに細かな要素であることを認識する必要がある。主に「何」の部分に相当することが考えられるが、いったいそれを誰に届ければ有効なのか、またどのような方法で届けるのかということも重要だということである。
重要な「STP分析」
セグメンテーション(市場細分化)、ターゲティング(狙う市場の決定)、ポジショニング(自社の立ち位置の明確化)の三つの分析を行うことで、最初に市場を細分化し、その中のどの市場を狙うかを決め、その市場の中でどの位置を占めるのかを決める。
市場を細分化するとき、単に性別や年齢などのデモグラフィックデータではなく、趣味嗜好、ニーズなどのデータでセグメントすることも有効である。
現在の状態を把握するための「4P」
「商品(Product)」「価格(Price)」「販促(Promotion)」「流通(Place)」の四つのポイントからマーケティングを決定し、現在の状態を把握するためのフレームワークである。
商品の品質やブランド力、価格帯はどうするのか、どうやってユーザーに到達させるのか、どのような経路で販売するのかをあらわしている。
四つの外部環境を分析する「PEST」
PESTとは、規制などの市場ルールを変化させる要素「Politics(政治)」、景気や経済成長などの価値連鎖に影響を与える要素「Economy(経済)」、人口動態の変化などの需要構造に影響を与える要素Society(社会)、ITやAIなどの競争ステージに影響を与える要素「Technology(技術)」の四つの外部環境を分析することで、原則的に自社ではコントロールできない。
現在のデジタルマーケティングにとって最も重要な分析フレームワークの一つである。変化の大きい時代では、自社の事業ドメインにこだわって、時間をかけてその事業を構築していくよりも、その時々の外部環境に合わせたリソースを調達して自社のコア・コンピタンスをすり合わせて事業展開をすることが合理的であるという考え方もある。そのためにはこのPESTの各要素の最新情報と変化の方向性を把握して対応することが重要である。
その他、「5フォース」「3C分析」なども重要であるが、ドメインを選定する基本となるものは、「SWOT(スウォット)分析」だろう。SWOTとは、「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の四つのことで、自社のもつ強みと弱み、外部環境の機会や脅威をそれぞれ分析する。通常は、これを組み合わせた「クロスSWOT」を行う。
例えば、自社がもつ強みを機会に対して発揮していくために競争優位性をさらに高める「積極攻勢戦略(『強み』×『機会』=『SO戦略』)」、強みをうまく活用して脅威になる影響を最小限におさえるか脅威を機会と捉える「差別化戦略(『強み』×『脅威』=『ST戦略』)」、自社の持っている弱みを利用して克服、強みに変えていく「弱点強化戦略(『弱み』×『機会』=『WO戦略』)」、弱みや脅威から生じる自社に対するマイナスを最小限に抑え、場合によっては該当分野から撤退することも考える「脅威回避戦略(『弱み』×『脅威』=『WT戦略』)」などがある。
このように、事業をフレームワークに落とし込み、分析することで、自社にとってより有効なドメインを選択し、優位性を持って事業を進めることが可能になる。それをDXによって実現していくわけである。
■執筆者プロフィール

積 高之(セキ タカユキ)
京都積事務所 代表 ITコーディネータ
広告・ブランディングの職務を経験後、コンサルタントとして独立。大手子供服SPA,酒販小売業チェーン、保険代理店などの顧問・コンサルタントを歴任。ITだけでなく小売業・広告業の実務経験を通じ、リアルビジネスのマーケティングをベースにしたコンサルティングのノウハウを持つ。関西学院大学専門職大学院 先端マネジメント研究科(後期博士課程)在学中。経営管理修士(MBA) 関西学院大学大学院経営戦略研究科卒。チーフSNSマネージャー、上級SNSエキスパート、上級ウェブ解析士などの資格も持つ。