企業の組織に“ガン化”した管理職がいると、社長への報告を捻じ曲げてしまいDXを壊しかねない。「考えない」「口だけで動かない」「動いたとしても無策に動く」「社長と部下に嘘をつく」「現実を見ない」「言い訳をして認めない」「会社のことを考えない」という七つの言動を、なぜ行う管理職が出てくるのだろうか、なぜそのような考え方をするようになったのだろうか、そもそもなぜ重要なポジションに就いているのだろうか、と不思議に思うことも少なくないだろう。今回はDXを壊す管理職の考え方やそれが生まれた背景、対応策について伝えていく。
日本企業はかつて三種の神器のように終身雇用、年功序列、企業別組合を兼ねそろえていた。しかし、バブル崩壊やリーマンショックを経て、転職が当たり前の社会となったため、企業が持っていた三種の神器は過去の遺物となった。とはいえ、長く勤めてくれている人を優先的に給料アップさせてあげたいという社長は多く、年功序列ではないといいつつ、本質は変わらないという企業も多く見られる。
それだけなら問題はないのだが、給料アップのときに給与テーブル上、役職もアップさせてしまうことが、ガン化した管理職を創り出してしまう。時代の変化がゆるやかで同じことを続けるだけでも人口が増えていたために企業が儲かった成長社会ならば良いが、ITをはじめとした仕事の高速化や市場のグローバル化で状況が目まぐるしく変化する成熟社会では、新しい技術や世の中の変化を学ぶことをせず、ただ現状の作業を続ける人を管理職にしてしまうと、市場変化とのミスマッチを起こしてしまう。
勤続年数や同じことの経験が長いことが、能力ではないということは頭で分かっていても、後輩に実力で抜かされていながら給料が高いままでは、後輩のやる気をそぎ、会社への不信を抱かせてしまう。出世しないと給料が上がらないから、おひとり様の課がある、課長・課長代理・課長補佐と役職が入り乱れている企業がある。そして新しいことをやるときには、そういう人に役目が回っていることがある。
このような場合DXを壊す管理職がいるきらいがあるとSIerは察知し、警戒しておいた方が良い。決定したことを後からひっくり返されたり、うまくいかないことを全てSIerのせいだと社長に伝えられていたりとDXの邪魔をしかねない。
DXを壊してくる管理職が考えていることは、「面倒なことはしたくない」ということに尽きる。だからよく知らないデジタルを用いたトランスフォーメーションなんてものに興味はない。変わりたくないのだ。「私たちより高い給料をもらっているくせに」と若手がいくら思っても、管理職は「今、高い給料をもらっているのは、若いうちに苦労したから」と思っているため、頑張る義理も必要も感じていないのである。だからこそ、SIerはプロマネに社内の状況を報告して、このような管理職は避けるよう相手の会社に働きかけてもらい、例えばDX推進室といった社長直属のセクションを作ってもらうなど対策をとると良い。間にガン化した管理職を入れないようにすることがポイントである。
「管理職が文句を言ってこないか?」と思うかもしれない。全く排除するともちろん文句を言ってきて、ひっくり返される危険を残したままである。ガン化した管理職はえてして、社長の顔色に従う傾向にあるので、社長報告の場にその管理職を同席してもらい、一緒に承諾してもらうというようにすると、管理職の面子を潰さずに進めることができるので、おすすめである。
DXを進める社員がリーダーシップを発揮し、ガン化した管理職にフォロワーシップを発揮してもらうようにするのだ。このとき、リーダーシップを執る人に役職は必要ない。役職を与えてしまうと、ガン化した管理職の反発を生んでしまいかねない。フォロワーシップとは、目的達成に向けてフォロワーがリーダーを補助していく機能のことをいう。支えてもらうというスタイルにすることで、ガン化した管理職の自尊心をくすぐりながらも、責任は実行部隊が持つことにより、気楽さも与えてあげられる。
フォローするだけであれば、「こういうときにはどうする?」「あのときのああいう事例にこれは対応できるのか?」などと長年培ってきたケースバイケースの事例から否定的な意見を出してきたとしても、むしろシステムの向上に役立っていく。管理職自身がリーダーであれば、そこで止まってしまい、「やらない」という結果に至ってしまうかもしれないが、管理職に責任がなければ、「せいぜいやってみな」と課題をくれるだけでDXの邪魔にはならない。
SIerはDXを推進していくためにまず、「面倒なことはしたくない」と考えるガン化した管理職がいないかどうかをチェックし、いるならば、その管理職を外したチームを構築し、フォロワーとして支えてもらうようにしよう。争ったり排除したりするのではなく、背中を押してもらえるよう後ろに立たせるようにするのがポイントである。「挑戦→実践→創造→代謝」の循環を促していく。「管理→抑制→停滞→閉塞」の循環にはしないように気をつけよう。
■執筆者プロフィール

並木将央(ナミキ マサオ)
ロードフロンティア 代表取締役社長 ITコーディネータ
1975年12月31日生まれ。経営と技術の両面の知識でDXに精通、現在の世情や人間観をも背景としたマーケティング、経営手法や理論の活用方法で、企業や各大学で講演や講義を行っている。さまざまな分野で経営やビジネスのコンサルティングを実施している。電気工学修士、MBA、中小企業診断士、AI・IoT普及推進協会AIMC、日本コンサルタント協会認定MBCなどの資格も持つ。