DXには組織イノベーションが欠かせない。DXを行うためには顧客や市場だけではなく、組織の変革も行わなければならない。社員を置いてきぼりにしたまま、IT化を進めても、使われないシステムを作るだけに過ぎないからだ。
よく聞く例では、社長の意向でIT化を進め、出来上がる頃に現場の人間が「聞いてないし、やり方を変えるのは手間である」と反発する。システム入れ替え時に退職者が急増する企業も少なくない。退職を防ぎ、システムを使ってもらったとしても、組織イノベーションを行っていない場合、やらなくてよくなった作業を“確認”といい、やり続けたり、空いた時間を何も生かさなかったりと「ただ仕事をITに奪われた人」を増産するだけになりかねない。
組織イノベーションあってこそ、DXは効果を発揮する。システムインテグレーターは、その必要性を顧客の情報システム部門に伝えなければならない。そうでないと導入フェーズで苦戦することになる。
まず、組織イノベーションの前提として社長のビジョンを共有することが重要である。小さなビジョンがなければ、ITを何に使えばいいのかが分からない。社員全体にDXを行う意義を浸透させることが第一に行わなければならないことである。ビジョンが浸透したら、次は鈍化した組織文化と徹底的に決別していく。システムを導入する前に、社内の問題に立ち向かう必要がある。
特に“がん化”した管理職を放置している場合は要注意。その管理職がプロジェクトマネージャー(プロマネ)だった場合は特に危ない。ひどい場合は優秀な部下に無自覚なパワーハラスメントをして、部下の意見も聞かず、理論の伴わない指示を飛ばしている。部下に無理をさせ、疲弊させてしまう。社員の離職率が高い企業では、この傾向が強い。システムインテグレーターとしては、これらを意識した上で、顧客内で話の分かる情報システム担当者を見つけてボトルネックの改善が進め、一人ひとりが刻々と変化する状況を判断し、実行していけるように組織をアジャイル化していく必要がある。
アジャイルという言葉は、もともとソフトウェア開発で使われていた言葉だが、昨今では変化への適応はソフトウェア開発以外の分野でも求められており、さまざまなビジネス領域でアジャイルの手法を採用する動きが進んでいる。
アジャイルの手法を取り入れる上で特に重要なのがマイルストーンの捉え方だ。現在は「VUCA」と呼ばれる不確実で予想困難な時代である。環境・状況が変化しているのに、頑なに最初の計画を守ることに何のメリットもない。臨機応変に目標達成に自発的に動けるようにプロマネと連携しておく必要がある。
そのようにして働き方改革とビジネス変革が進んでいって初めてDXを行う下準備ができる。なお、IT化によって人員削減を考える社長も多いだろうが、それは誤りである。貴重な資源の人員を捨てたり、「ただ仕事をITに奪われた人」を増産したりしないようにシステムインテグレーターは顧客の社長が何を考えているのか冷静に分析することも重要だ。人件費削減のためにITに投資をするのではない。ビジョンを達成するために行うのであるということから逸れてはならない。
社員がやりたくない作業をIT化し、その分、社員の育成・教育に力を入れる。そして、社員がやっていて楽しい、ワクワクする仕事に人材をシフトすることが、本来の働き方改革であり、IT導入の目的だということをシステムインテグレーターは忘れてはならない。
■執筆者プロフィール

並木将央(ナミキ マサオ)
ロードフロンティア 代表取締役社長 ITコーディネータ
1975年12月31日生まれ。経営と技術の両面の知識でDXに精通、現在の世情や人間観をも背景としたマーケティング、経営手法や理論の活用方法で、企業や各大学で講演や講義を行っている。さまざまな分野で経営やビジネスのコンサルティングを実施している。電気工学修士、MBA、中小企業診断士、AI・IoT普及推進協会AIMC、日本コンサルタント協会認定MBCなどの資格も持つ。