これまで3回にわたって羽田雅一・MIJS理事長が、これからの日本に必要なIT・ソフトウェア解説してきたが、今回はMIJSでビジネスネットワーク委員会の委員長を務める筆者が、“ももクロ運営”をコンセプトにDX成功の秘訣を解説したい。「アイドルの話なんか興味ない」「意味が分からない」と思うかもしれないが、DXの最大の壁である、人やチームづくりに関する話を分かりやすく伝えるため、“ももクロ”を題材にするだけだ。本当に必要なトランスフォーメーションは何か。企業や日本という国においての可能性(チャンス)につながるヒントを伝えていきたい。
学びと出会いのプラットフォーム「meetALIVE」をプロデュース
筆者は、「meetALIVE(ミートアライブ)」という出会いと学びのプラットフォームのプロデューサーをしている。meetALIVEとは「変革のリーダー」を対象としたミートアップイベントであり、変化に敏感で、”考動”できる人たちに刺激を与え、多くの人がこれをきっかけにつながり、明日の日本や社会の“あるべき姿”の実現に向けて寄与することを目的に活動している。
2018年から通算43回開催され、中田敦彦氏や尾原和啓氏などの著名人からスタートアップ企業の経営者など、多彩なゲストの方々に支えられ、旬なテーマを厳選しながらプロデューサーのきまぐれなペースで開催している。
DX成功のカギは奇跡のチームづくりと人が生み出す「閃き」
DXで重要なのは「X」。すなわちトランスフォーメーションであり、変わることだ。「D=デジタル」は金で買えるしモノマネも可能。モノマネ可能な「D」だけで顧客の心を震わすような感動を与えることはできない。他社よりもデジタルの力で圧倒的な差別化を生み出さなければDXとはいえない。“ソフトウェア屋”の筆者がいうのも何だが、SaaSベンダーの誇大広告・詐欺まがいなDXアプローチに騙されないよう気を付けてほしい。
DXやDを扱うためのデータ活用についてアンケートをとると、最大の課題は、組織や人にひも付いてくる。これまでもこれからも、時代を塗り替えるのは常に「人」であり「チーム」なのだ。かつてイノベーションを生み出した石炭や石油やインターネットはあくまでも“手段”。そこから蒸気機関車や自動車、コミュニケーションツール、YouTubeやGoogleを生み出すのは人であり、そこに集まるチームによる閃きだ。
日本を悲観する前に日本にある無限の可能性は何かを考える
「日本はIT敗戦国だ!」「もう日本は駄目だ!」と嘆く人がいるが、鬱憤の一翼を担っている自身という存在を放棄して、問題の本質を直視せず、ぶつける矛先を見失い「日本」というマクロな存在にツバを吐いても、結局、自身に返ってくるのが関の山だ。
筆者が刺激を受けたのは、今から6年ほど前にYouTubeで見た安宅和人氏の「シン・ニホン」の動画だ。
どのような内容かというと、妄想力が富を生む時代である、技術者の数は圧倒的に世界に負けている、歴史を振り返ると黒船が来た時代に近いがその後の日本はソニーやトヨタ、パナソニックなど、世界を代表する企業を生みだし、世界一速い新幹線やスパコンを創りモノづくりで世界をぶっちぎった、日本にも攻殻機動隊やドラえもんという素晴らしい妄想力で描かれたコンテンツがある、今こそ妄想力をもって、DXで目指す究極のゴール(あるべき姿)を実現させよう、というようなものだった。
筆者はデータ活用や分析の会社で業務に従事しているが、かつて4兆円あったとされ、日本が優位性を誇っていた携帯電話市場がスマートフォンによって一瞬で溶けてなくなったように、左脳の強さ(論理思考・データ・事実・市場調査)では“差別化”が無理といい切っており、右脳=感性・Art・直感・世界観・歴史観が超重要であるといえる。
圧倒的な差別化を生むための奇跡のチームづくりを“ももクロ運営”から学ぶ
筆者はチームビルディングを得意としているが、チームでビジネスをドライブさせるため、ここ10年、裏側で参考にしていたのが「ももクロ(ももいろクローバーZ)」運営による成長ストーリーだ。
日本を強くするためには変革のリーダーとそこに集まる仲間が必要。それをまさに体現し実現しているのが、ももクロというアイドル運営なのだ。ももクロ運営において、変革のリーダーは、ももクロの生みの親でありマネージャーの川上アキラ氏。そして、そこに集まる仲間がももクロのメンバーなのだ。
アイドルという歴史を俯瞰的に見ても、ももクロは「メンバーの集め方」「育成」「成長戦略」「ファンとの関係性」など、全てにおいて特異な存在だ。
それを象徴する出来事が先日、紫色を担当する高城れにさんの結婚でした。高城さんは結婚してもアイドルを続けることを宣言し、多くのファンがそれを支持したという。これまでのアイドルとファンの関係性の常識をくつがえす出来事だ。この出来事から、これまでいかに、ももクロがアイドル界の常識である“疑似恋愛”を売りとせず、“人間性そのもの”を売りにしてきたかということが分かる。
そんなグループを育てた川上氏の人を伸ばすマネジメント力やビジネス成功のための秘訣を三つ伝えたい。
1.原点から頂点を目指す!
ももクロはデビューからわずか4年で紅白歌合戦、そして6年目に国立競技場でライブを行った。歌もダンスもできなかった子たちが、たった6年で当時(2014年)は「SMAP」「嵐」「DREAMS COME TRUE」「L’Arc~en~Ciel」という4組しか実現できなかった「国立競技場でライブをやりたい!」という奇跡の目標を成し遂げた。
学生時代にスポーツをしていた川上氏は、街レベルで強い人間と、県レベル、全国レベルがいかに違うかが“意識の違い”にあるということを大人になり知り、彼女たちにいくつものDXではなくMX(マインド・トランスフォーメーション)を仕掛けたのだ。
2.ストーリー仕立てにして顧客の心を掴み取る
米国のプロレス団体「WWE」、80年台から90年代の新日本プロレスやUWFなどに影響を受けた川上氏は、どうすればファンの心を揺さぶることができるのかを常に考え、高い目標達成に向けて駆け出しの頃からストーリーをいかに紡いでいくかを考えていたようだ。
多くの企業も中期経営計画やDX戦略を掲げているが、顧客が主役になっていないものや、ストーリー性に欠けるものが散見される。ファン(顧客)心理を徹底的に考え抜くという大切さを痛感させられる。
3.人の育て方は馬場か猪木かで考える。
プロレスが大好きな川上氏は、ももクロを育てる際に力道山によるジャイアント馬場とアントニオ猪木の育て方に共感した。
力道山は、馬場には天性に恵まれた体格とパワーがあるので、どんどんチャンスを与え自信を持たせ、素質を花開かせるようにして育てた。猪木は中型の体型で恵まれているとはいい難かったため、努力と根性が大事で、下積み時代に苦労を味わわせ、そこから生まれる雑草の強さに期待し反骨精神を持たせ、メンタルを強くしたそうだ。
川上氏は、タレントが芸能の仕事だけで飯を食べられるようになるのがほんの一握りで、その一握りになれるようにその人の人生に寄り添って成長のストーリーを考え抜かなければ、ビジネスのストーリーは描けないのだと考えたようだ。
人生を語り合えるチームこそ、世界がワクワクする未来を創造できる。
最後に筆者が自チームで行っているタレントマネジメントを軸とした人材マトリクスのフレームワークを共有しておく。
高い目標や強いチームをつくる際、「データドリブン」を間違えた武器として捉え、メンバーの行動を厳しく管理するだけでは駄目だ。プロ意識を注入しないまま放置するのは、もっと駄目だといえる。
人やチームづくりで大切なのは、勝ち負けにかかわる強さと、目の前の顧客から最高の笑顔を引き出すために「今、何をするべきか」を必死で瞬時に考えられる人を増やすこと。そのためにリーダーは一人ひとりのメンバーの人生と真剣に向き合うことが大切であるということを川上氏から学ぶことができる。
■執筆者プロフィール

森脇匡紀
ウイングアーク1st 執行役員営業本部本部長
ストラテジット 社外取締役
MIJS(Made In Japan Software & Service Consortium)ビジネスネットワーク委員会委員長
1999年、翼システム(当時)に転職。2001年に大阪営業所の立ち上げを行い西日本でのビジネス基盤を築く。06年、東京に戻りパートナー制度「WARP」を立ち上げ、パートナービジネスを牽引。10年、バリオセキュア・ネットワークス(当時)のM&Aをリードし、ウイングアークのデータ活用事業におけるクラウドビジネスを立ち上げる。2018年にはユーザーコミュニティ「nest」を再考し顧客基盤を固める役割を果たす。21年より現職に至る。ももクロは赤色を担当するリーダーの百田夏菜子さんを推していたが、22年春頃からなぜか黄色の玉井詩織さん推しに変わっている。