デジタルマーケティングは、かなり早いスピードで進んでいるが、それは特に「テクニック」や「ツール」などの細かな部分にスポットライトのあたることが多い。本来、そのような変化も、さらに大きな潮流の一貫であることが多く、その細かな変化に対応しつつもマーケティング自体の本質を見失わない態度は重要である。この連載では特に今、マーケティング自体が大きな変化をしつつある中、その流れを捉えた上でデジタルマーケティングを追求していく。
ビジネスでSNSに携わっている場合、投稿のリーチに変化があることに気づいているかもしれない。以前よりも、あきらかに「つながりのない顧客へのリーチ」が減ってきている。これはFacebookを筆頭に、各メディアがアルゴリズムを変えていることが要因である。なぜ、このような措置を取るのだろうか。 また、SNSをどう使えばマーケティングの効果が出るのか。
そもそもSNSは「個人と個人をつなぐもの」で、もちろんそれ自体はマーケティングツールではなかった。ただ、それぞれのSNSメディアはその維持を「会費」でなく「広告費」を収益にしたビジネスモデルとし、利用している個人は「広告を見ること」によってメディアを快適に使うことができる。
この構造自体はマスメディアに似ているが、少し違っているのがオーガニック運用という機能があることである。見ているユーザーはもちろん、投稿している企業や店舗も特に誰かに費用を支払っているわけではない投稿が運用され、企業側は「これはマーケティングに使える」と飛びついた。当初(一部では今も)「プロモーション」の一貫として捉えられ、そこで告知していくことで自社サイトやECなどへの誘導を促すものだという考えが主流であったことは、さほど昔話ではない。
ユーザーは、もともとSNSを「友達とのつながり」として利用しており、各メディアもそうすることによってユーザー数を増やし、離れないように維持している。「使っていて楽しい」からこそユーザーは利用し続けるわけで、それを維持するための「広告」をぎりぎり容認しているかもしれないが、無料で利用されている企業運用は、ユーザーにとってメリットではない。そのような状態の中で投稿を届けようとする割には、配慮が足りなかったのではないかといえる。
ユーザーが公園で友達と遊んでいたりベンチに座って景色を見ていたりしているところに、急に宣伝カーがやってきて、近くの雑貨店の安売り情報をラウドスピーカーでがなり立てるとしたら、その車の印象はどうだろうか。 もちろん、かなり鬱陶しいものに違いないし、その内容を好きになることはないだろうし、聞いてもらえないかもしれない。
ただ、もし「ちょっとした飲み物の屋台」が静かに横付けして、「その公園の楽しみ方」とか「付近の情報」などをボードに書いて車の側面に貼ってあり、窓口でドリンクを売っていたら、中には買う人もいるかもしれない。さらに、それが座って楽しめるカフェが近くにあるなら、行ってみる人がいるかもしれないし、そのカフェにテイストのあった雑貨が売っていれば、手にとってみるかも知れない。SNSでのオーガニック運用は(場合によっては広告出稿についても)、そのような配慮が必要なのである。
集客に効果があることが知られるようになり、たくさんの事業者が運用をはじめ、例えば飲食店で何のSNSのアカウントも持ってない店はもう珍しい状況になってきているが、その中でこの特性を分かって運用しているケースは多くない。個人アカウントの延長として使っているなら、まだましな方で、多くのアカウントはラウドスピーカーとして使っている企業がまだ多いのが現状である。
そして何より重要なことは、各メディアはユーザーの減少を招きかねないこの種の投稿を制限し始めているということである。広告を伴わない告知を許した結果、ユーザーが離れてしまうとメディアは困るわけで、アルゴリズムを変更することで調整段階に入っている。これまでのSNSでのプロモーション(無料で)という方式はいよいよ通じなくなってきているわけである。
では新しい時代のSNSの使い方はどういう方法か。「コミュニュケーション」である。例えば、飲食店のInstagramでもフィードの投稿はもちろん行いつつ、力が入っているのはストーリーズ投稿であり、そこから起きるコミュニュケーションでる。予約のやりとりを行っているケースも珍しくない。Twitterで企業名にハッシュタグをつけて話しかけてみると、公式アカウントが返信してくれるという例も多い。そのようなつながりの中でファンコミュニティを形成していく。
すでに購入などの経験があって企業とつながっている顧客、さらに拡大したファンの存在、SNSではそのコミュニティを作る機能を充実させてきている。
15秒のショート動画が拡散に向いていることは間違いない。ただ、それを拡散しつづけることが、マーケティングの施策になっているのかどうか。今一度、振り返ってみるべき時期がきたのかもしれない。
■執筆者プロフィール

積 高之(セキ タカユキ)
京都積事務所 代表 ITコーディネータ
広告・ブランディングの職務を経験後、コンサルタントとして独立。大手子供服SPA,酒販小売業チェーン、保険代理店などの顧問・コンサルタントを歴任。ITだけでなく小売業・広告業の実務経験を通じ、リアルビジネスのマーケティングをベースにしたコンサルティングのノウハウを持つ。関西学院大学専門職大学院 先端マネジメント研究科(後期博士課程)在学中。経営管理修士(MBA) 関西学院大学大学院経営戦略研究科卒。チーフSNSマネージャー、上級SNSエキスパート、上級ウェブ解析士などの資格も持つ。