これまで、ERPの歩み、導入、保守、展開のポイントなどを説明してきた。最終回となる今回は、ERPの未来を想像してみたい。ERPの未来に欠かせないキーワードは「RPA」と「AI」そして「DX」だ。
ERPとRPA
近年、IT業界で流行りのキーワードに「RPA」がある。RPAとは「Robotic Process Automation」の略で、従来人間が手作業でやっていた事務作業をソフトウェアロボットにより自動化するという概念である。旧来製造現場で進められてきた「FA(Factory Automation)」を事務処理などの非生産業務にまで拡張したものであり、そこでは物理的なロボットは存在せずソフトウェアによって自動化が図られる。
ERPが扱う業務のうち、マスターや伝票の登録作業、日次や月次でのチェック作業などは自動化が可能なものが多い。ERPパッケージにこのようなRPAの機能を実装することで、最初は人間が手作業で行い、徐々にそれを自動化していく、ということができるようになる。そうなるとERPを利用すればするほど業務の効率化が図られていくことになる。このような仕組みは夢物語ではなく、まもなく常識となっていくだろう。
ERPとAI
ERPは現在、企業の経営計画に使用されているというよりも、むしろ業務の実行やその実績の把握のための基幹システムとして利用されている。販売計画、生産計画、そして経営計画は依然としてExcelなどで人間の頭で考えて作成されている場合が多い。ERPには、企業のさまざまな情報が蓄積されており、このデータを有効活用することにより、これらの計画業務を支援することができる。
従来のERPでは統計学を利用した予測機能などが搭載されていたが、やはり人間の経験と勘に勝つことはできなかった。しかし、近年のAI技術の発達でこの計画業務に革新がもたらされる可能性がある。販売実績などのデータを分析して、将来の需要を予測したり、注力すべき製品カテゴリ―を提示したり、不振事業の撤退タイミングを提案してくれたり、ということが実際に使えるレベルでできるようになるだろう。
もちろん、そのためにはCPUやメモリ、ストレージやネットワークなどインフラ部分の性能の飛躍的向上も不可欠となる。また先に挙げたRPAにもAI技術の進歩が欠かせない。
ERPとDX
このようにRPAとAIの発達とクラウドコンピューティングの促進により、これまでは重厚長大なシステムというイメージのあったERPが、より軽くてスマートなシステムに変貌していくと考えられる。とはいえ、実際に利用するのは人間であるので、従来の発想から脱却し、システムに任せられることはできるだけシステムにやらせ、自らはより創造的な業務に集中する、という転換を行わねばならない。
それが達成できた組織、企業こそがERPのメリットを最大限享受し、企業価値を高め、市場競争に勝ち残っていくだろう。この変革がまさしく「DX(Digital transformation)」なのである。ERPはDXを促進するための強力なツールになっていくだろう。
■執筆者プロフィール

寺坂茂利(テラサカ シゲトシ)
JJC 代表 ITコーディネータ
監査法人で監査業務に従事した後、外資系ERPベンダーに転職。2000年に独立し、ERPの導入、開発、運用を支援するJJCを設立し、現在に至る。公認会計士でもある。