一般的なERPパッケージは多通貨、多言語に対応しており、グローバルに活動する企業での利用が想定されているため、ERPを標準システムとしてグループ全体に展開導入する手法がよく採られる。ところが、実際に世界のさまざまな国、さまざまな規模の現地法人にERPを導入するのは一筋縄ではいかない。海外現地法人にERPをスムーズに導入するにはどうすればいいか。ERPを海外現地法人に展開していく上で重要なポイントを解説する。
筆者がERP導入に関わってきた国一覧
テンプレートは海外法人をベースにすること
まず、展開のベースとなるシステム(テンプレート)を作ることになるが、この際のターゲット選びが重要となる。日本企業の場合、本社や国内のグループ会社は業務要件や法制度の要件など、システムへの要求が非常に多く、これをテンプレートにすると海外現地法人に全く合わないものになってしまう。
少なくとも日本国内用と海外用のテンプレートは分けるべきで、海外用テンプレートは例えばタイやシンガポールのような比較的小規模で法制度の要求が少ない国の現地法人で構築すべきである。テンプレートは最小限のものにしておいた方が、後にスムーズに展開しやすい。
言語は三つ程度が理想
ERPパッケージが世界の20以上の言語に対応していたとしても実際に使用する言語はある程度限定しておくべきである。問い合わせ対応の際に画面コピーが送られてきても日本人の担当者はどんなエラーメッセージが出ているのか、何を入力しようとしているのか、全く想像がつかないということが発生してしまうからだ。システムは英語、日本語、あとは利用者が多い中国語などと三つ程度に絞っておくのが理想的である。
各国の法制度要件を把握するには
海外現地法人にシステムを導入する際には、当然ながらその国の法制度に従わなければならない。テンプレートをベースにしながらも各国の法制度要件に合わせたアドオン、カスタマイズを行って導入をすることになるが、ここで落とし穴になるのは、現地の従業員が間違った要件を伝えてしまうという点である。
海外導入は現地の従業員に要件をヒアリングしてそれに対応するというのが手っ取り早いのだが、その国の法律や制度の最新情報を従業員の方が全て把握しているとは限らない。税務などの重要なポイントは現地の監査法人や同国内にある他の日系企業から情報を収集することも大変重要な作業である。
コミュニケーションをとろう
海外現地法人にERPを導入するには、現地従業員の協力が不可欠である。システム導入という名目で日本人が乗り込んできて日常の業務の邪魔をされては現地の従業員も嬉しくはない。しかし、このシステム導入で今後の業務が改善され本社との連携もスムーズになるというメリットを理解してもらうため、積極的にコミュニケーションをとって味方につけていくことが大切である。
スケジュール管理も重要
多数ある海外現地法人への展開導入を素早く完了させるには、スケジュール管理も重要となる。展開導入は1社当たり3カ月から1年かかることになるため、きちんと体制を組んで無理のないスケジュールを立て、定期的な進捗管理を行っていかなければならない。
■執筆者プロフィール

寺坂茂利(テラサカ シゲトシ)
JJC 代表 ITコーディネータ
監査法人で監査業務に従事した後、外資系ERPベンダーに転職。2000年に独立し、ERPの導入、開発、運用を支援するJJCを設立し、現在に至る。公認会計士でもある。