チエルとキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は、主に小中高等学校に焦点を当てた学校情報システムの企画・開発を加速させる。両社は2022年末にキヤノンITSがチエルに一部出資する資本業務提携を結んでおり、双方の知見を持ち寄ることで学校業務のデジタル化を支援するシステムの企画・開発を推し進めている。学校業務は紙を使った業務が多く残るとされ、民間企業に比べてデータ活用も十分に進んでいないことに着目。23年内をめどに教職員の業務改革に主眼を置いた「学校情報システム」の商品コンセプトを確立し、開発に着手したい考えだ。
(安藤章司)
チエルは小中高等学校向けの授業支援システムで強みを持ち、とりわけ主力商材の「InterCLASS(インタークラス)」シリーズを通じたChromebookの活用支援システムでシェアが高い。Chromebookを採用している学校は全体の約4割を占め、このうちチエルのシステムは40%のシェアを持つ。キヤノンITSは大学をはじめとする高等教育機関向けの学習管理システムや学内ポータルなどを中心に全国100校余りの納入実績を有する。キヤノンITSはかねて小中高等学校市場への進出を計画しており、チエルも高等教育市場への進出や全国規模での販売力、開発力の増強を望んでいることから両社の資本業務提携に至った。
チエル 粟田 輝 社長
両社は小中高等学校向けの新商材を共同で開発するにあたり、学校情報システムと呼ばれる領域に着目している。授業を除く校務全般の業務には、ペーパーレス化されていないアナログ業務が数多く残っており、教職員の長時間労働も課題として挙げられる。そこで、まずは教職員を対象とした学校業務のデジタル化支援を推し進める。
文部科学省のGIGAスクール構想によって、授業領域では一人1台の端末の普及など急速にデジタル化が進んだものの、例えば児童生徒の出席管理や時間割、週報作成といった授業以外の領域における効率化の余地はまだ大きく、「授業領域とは別枠での予算確保も期待できる」と、チエルの粟田輝社長はみる。
キヤノンITS 酒井俊明 事業部長
キヤノンITSが所属するキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループは、複合機を軸としたペーパーレス化や文書管理にノウハウがあり、グループ傘下のキヤノンシステムアンドサポートは全国に約160の拠点を展開して地場の中堅・中小企業向けに複合機やITソリューションの販路を持つ。キヤノンITSが大学などで培った教育機関向けのITソリューションの知見と、キヤノンMJグループの販売力、チエルの小中高等学校向けの強みを組み合わせることで「業務のデジタル化を通じた教職員の働き方改革の需要をつかめる」とキヤノンITSの酒井俊明・文教ソリューション事業部事業部長は話す。
データ活用では、例えばインフルエンザでの欠席数やプールの利用状況など、これまで書類に書き込んでいたものをデジタル化し、学校単位で可視化できる。教育委員会に向けては、地域の学校をまとめて閲覧するといった用途も考えられる。定期テストの自動集計や生徒児童の学習進捗のリアルタイム分析といった授業領域も重要だが、「教職員の働き方改革という観点では、授業以外の領域のデータ活用も欠かせない」と粟田社長は指摘する。
両社は、短期的にはチエルの主力商材であるChromebook活用支援システムや、キヤノンITSの文教向けシステム商材を互いの販路で展開するといったクロスセルによる相乗効果を見込む。中期的には学校情報システムの開発によって、両社のビジネスを伸ばしていく方針を示している。