エム・クレストの副社長兼エンジニアである小澤一裕です。情報システム部門に配属された新入社員やリスキリングで改めてICTに取り組もうという方々に向けて、知っていると便利なICTに関する情報をお届けしようと考えました。第3回は「“野良アプリ”を再生する~Notes編」というテーマで、つくった人が転職などでいなくなり、メンテナンスなどができなくなったNotesアプリを別のグループウェアに移行した話をします。
今回はあくまで当社で実行した方法なので、ほかにもっといい移行方法があるかもしれないことはご了承ください。なお、「野良アプリ」とは、ユーザーが業務用につくったものの、作成者がいなくなってしまい、誰もメンテや運用ができなくなったアプリのことです。詳しくは第2回を参照してください。
■Notesから他のグループウェアに乗り換えたいが……
Notesは、メールやポータルなどのシステムとして多く企業で導入されています。ユーザーがアプリを自由につくれることが大きな特徴で、ユーザーは便利さを求めてさまざまなアプリをつくることが多いようです。ただし、しっかりルールを決めて管理していればいいのですが、管理が行き届いていないとデータの関連などが分からなくなり、メンテがとても難しくなります。
第2回でも説明しましたが、ユーザーがアプリをつくると「動けばいい」になりがちで、メンテや移行のしやすさを考慮することはまれです。ドキュメントはなく、全体像は作成者の頭の中にあります。当社に相談があったA社のNotesアプリも例外ではなく、作成者がいなくなったため、全容もデータ項目の意味もよく分からなくなっていました。
Notesは、2024年6月にサポートが終了します。それまでにほかのグループウェアに移行する必要がありますが、A社では、Notesのアプリを日々の業務で使っていたため、なかなか移行できない状況でした。
■Notes Designerでデータを抽出
移行に当たり、操作方法や画面がまったく同じでなくてもよい(とはいえ、できるだけ同じようにしてほしい)ということがA社の希望だったので、方針は単純でした。Notesからデータをエクスポートして別のグループウェアにインポートし、その環境でアプリをつくり直すという内容です。新しいグループウェアの条件は、▽ウェブ上(クラウド)で動く▽社員でもメンテできる―の二つでした。
グループウェアを選定する前に、データがエクスポートできないと話になりません。調べた結果、「Notes Designer」というツールを使い、LotusScript(Notesのスクリプト言語)でプログラムを書けばエクスポートできることが分かりました。
Notes Designerの画面
■ネオジャパンのAppSuiteに移行
エクスポートが可能ならば、あとはグループウェアの選定です。クラウド型のグループウェアで使えそうなものを探したところ、サイボウズの「Kintone」とネオジャパンの「desknet's NEO」が良さそうでした。どちらも比較的簡単にアプリがつくれますが、desknet's NEOのアプリ作成ツールである「AppSuite」のほうが、画面レイアウトがより自由に構成可能で、Notesアプリの画面イメージを踏襲できそうだったので、そちらを採用しました。
AppSuiteの画面
その後、AppSuite上で画面の素案をつくり、それをA社に見てもらって修正していきました。データの移行もAppSuiteのAPIから行えました。ざっくりした工期になりますが、約3カ月で移行が完了しました。内訳は、調査と方式決定に5日、要望ヒアリングから仕様をまとめるのに1カ月、画面構成を決めるのに10日、データ移行テストに10日、業務移行リハーサルに1カ月となっています。
■データの移行が最も大変
野良アプリの移行だけでなく、旧システムから新システムに移行する際、大変なことの一つにデータの移行があります。ユーザーは、この部分をあまり意識していませんし、ベンダーも、担当者が経験不足だと軽視しがちです。結果として当初予算外の作業になり、ユーザーとベンダーのどちらが負担するかでもめることが多いです。そもそもデータ移行はしないと突っぱねるベンダーもいるくらいです。
特にNotesアプリの場合、データの属性や必須条件を途中で変更できるため、現状のデータ属性が過去にも同じだったという保証はありません。今回のNotesアプリも10年以上、使われ続けていたため、過去のデータには、おかしなものが散見されました。具体的には以下のようなことがありました。
・データ項目のひも付けのためだけの隠れたデータ項目があり、データ同士のつながりが分かりにくかった。
・インポートする際にさまざまな変換が必要だった。具体例は下記の通りで、抽出したデータをExcelのマクロで変換して対応。
-必須項目なのに空
-数字項目に文字データ
-機種依存文字
-3桁の郵便番号
-半角と全角が混在
-使われていない項目が残存
デジタル社会ということで、データ分析が盛んになってきましたが、機械学習にかかる時間よりも、データを学習可能なかたちに整理するほうがよほど手間と時間がかかります。「今あるデータを他で使えるようにすることはとても大変だ」ということは覚えておいたほうがいいでしょう。なお、こういったとことはとことんアナログだなぁと感じますが、個人的にアナログの作業は好きです。
■執筆者プロフィール

小澤一裕(コザワ カズヒロ)
エム・クレスト
取締役副社長兼エンジニア
インターネット黎明期の2001年にWeb系ベンチャー企業でプログラマーとして多くのシステム開発を手がけた後、日立グループにてシステムエンジニアとして大規模インフラ事業などに従事。放送とITの融合時代を先読みし放送系ベンチャー企業で開発、拡販に関わる。その後、ITの困りごとを解決する専門集団「エム・クレスト」の立上げに参画。