米Intel(インテル)日本法人の大野誠社長は、週刊BCNの取材に応じ、国内市場における「AI PC」の普及支援に意欲を示した。国内で新規に販売されるAI PCの割合について、現状はおよそ3台に1台だが、大野社長は「2026年末頃には2台に1台となるように市場を盛り上げたい」と述べ、今後投入する次世代プロセッサーや、ソフトウェア開発のエコシステム支援などを通じて、AI PCの販売拡大にさらに力を入れる姿勢だ。
(取材・文/下澤 悠)
国内では「Windows 10」のサポート終了に伴うPCの入れ替え需要が一段落したとみられる。今後のPC市場におけるAI PCの位置付けをどう考えるか。
25年の国内市場はWindows 10の関係でリプレースが大きく進んだ。こうして需要が伸びた翌年は落ちるというのが当然の流れだが、マイナスのままにするのではなく、PCメーカー各社と一緒にAI PCで市場全体を盛り上げていきたい。
大野 誠 社長
AI PCがどれくらい売れているのかとよく質問を受けるが、新たに販売されるPCの概ね3台に1台が(NPUを搭載した)AI PCだと理解している。徐々に増えており、26年末には2台のうち1台はAI PCとなるように持っていきたい。先日概要を公開した(PC向けの)次期プロセッサー「Panther Lake」(開発コード名)を投入し、訴求をしっかり進めたい。
今、AI PCを購入いただいたユーザーでも、AIを駆使できている人は、多くはないだろう。それでも、AI PCを選ぶ理由としては、全体的に性能が高い上に、NPUで処理を行うことで消費電力が抑えられ、バッテリーの持続時間が長くなる点が挙げられる。
機密情報を扱いやすく
法人向けに訴求するAI PCの価値は何か。
消費電力あたりの性能が非常に高いため、業務効率を向上させる点において効果を発揮するだろう。われわれも社内で議事録の作成などに「Copilot+ PC」を使っており、実際に効率が上がったと感じている。「精度が高いクラウドでやればいいじゃないか」という指摘があるかもしれないが、さまざまな機密情報を扱うなら、簡単に情報を外へ出すわけにはいかない。生成AIをどう使うかというポリシーを企業はそれぞれ定めていると思うが、ポリシー内で利用するハードルを、一段下げてくれるマシンになるのではないか。
また、例えば(クラウドのAIサービスを使って)動画や画像を生成するとそれなりにコストがかかる。それらが絶対的に高いという話ではなく、いろいろなユースシーンがあるはずなので、選択肢を増やすという意味ではAI PCは面白い。手軽にローコストでAIを使いたいユーザーにとっては魅力的に感じてもらえるだろう。ローカルではクラウドのような大型モデルを動かすことは難しいが、かなり小ぶりなモデルでもそれなりに精度が上がってきているので、あまりレイテンシーを感じることなく本当に手軽に使うことができる。
Panther Lakeはどのような点でAI PCを進化させるか。
Panther Lakeは、最新の半導体プロセス技術である「Intel 18A」に基づく初めての製品になる。前世代と比べ、CPUだけでなく、GPUとNPUも性能が向上しており、AI PC向けに搭載されるプロセッサーとして、われわれの期待は大きい。
今回は、拡張性に難点が出てしまわないようあえてプロセッサーのパッケージ上にメモリーを同梱しない選択をしている。(PCメーカーは)さまざまなメモリー容量の製品を用意できるようになるため、企業ユーザーにとってはそのほうが都合が良いと判断した。
ソフトウェアの充実へ
AI PC向けのソフトウェアを増やす取り組みについては。
グローバルでは、AI PC向けのアプリケーションを紹介する、Webページの「AI Showcase」を公開するなど、さまざまな取り組みを進めている。国内では、日本のユーザーや日本語に特化するようなアプリケーションが出てこなければ、AI PCが普及しないと感じる。
企業の中でAIをどう活用するかということと連動しているが、顕在化し始めているユースケースやニーズをしっかり拾いたい。AIで動きそうなアプリケーションを何でも無理やりAI PCで動かすのではなく、本当にユーザー目線で効果のあるところを絞りながら進める。そうした過程でユーザーが増えていき、有機的に広がるという展開が見えつつある。
ソフトウェアベンダーがAI PC用のソフトウェアを商用製品として出す時期は近いか。
最近は問い合わせもかなり多く、そのような時期はすでに来ている。(アプリケーションの)種類や幅を広げていくための活動として、AIアプリケーション開発のワークショップ「PEAR Experience by Intel」を今期から始めている。参加しているお客様は非常に幅広く、有名PCメーカーやSIer、エンドユーザーもいる。
日本に適したアプリケーションをベンダーがつくる必要があるということか。
国内のユーザーや企業が使うものとして、今のままでは不十分であろう。ファインチューンさせることが非常に重要で、そのファインチューンしたモデルをさらにアプリケーションレベルに落とし込む部分も少しずつ進んでいる感触がある。26年後半頃には実用性の高いアプリケーションが提供され、国内企業のユーザーが増えてくるのではないか。