システム開発の三和コムテックを設立するまでの25年間は、シェル石油やING生命保険で社内のIT担当者としてシステムを管理していた。「社内業務が円滑に回るようにするため、システムの導入を常に考えていた」と振り返る。システムにトラブルが生じた際、メーカーやSIerなどの力を借りずに修復しなければならないケースはけっこう多い。「本来ならば、メーカーやSIer側がトラブルなしのシステムを構築するのが筋だろう」と、自ら最適なシステムを提供するため起業した。
「ユーザー企業のことを考えれば、製品ありきの提案では駄目」。しかも、顧客ニーズを聞くだけではなく「むちゃなシステムを作ろうとしている企業に対しては、大幅な利益が見込める大型案件であっても、きちんと断り、その理由を説明する。トラブル時の修復の苦労や損失も考えながら、ソリューションを提案することが重要」という。こうした姿勢を貫くことで、顧客からは「半歩先を提案してくれる」と評価されている。
最近の業界は、「ITを使ってサービスを提供することだけに力を注ぎ、システム構築を疎かにしているようにも見える。それでは、日本のIT産業が発展しない」と指摘する。「もともとこの業界に強い思い入れがあったわけではない。引退したら川の美化活動に励み、誰でも気軽に川で遊べる環境作りなどで社会に貢献したい」という。しかし、当面はトラブルに悩むシステム担当者の“救世主”の役割を降りることはできそうもないようだ。
プロフィール
柿澤 晋一郎
(かきざわ しんいちろう)1940年台北生まれ。64年3月慶應義塾大学工学科卒業。66年、シェル石油(現昭和シェル石油)に入社。72年以降、社内のシステム担当者としてシンガポールやマレーシア、オランダなどの拠点で勤務する。80年には英国ロンドン拠点でITコンサルタントを担当。83年、英国政府AI(人工知能)プロジェクト「SDP」に参画する。86年、ING生命保険に入社、事務管理本部長に就任。91年、三和コムテックを設立し、代表取締役社長に就任。現在に至る。