「プログラミングを始めたのは中学生のころ。テレビゲームがプログラムでできていると知ったから」だ。マニュアル本を読んだりしながら独学し、ベーシックマガジンに掲載されるほど熱中した。その後、大阪外国語大学を経て1998年に大阪大学工学部の大学院に研究生として入学した。
在籍していた研究室のメンバーは個別ブースで各々研究を行っていて「相手の状況が分からなかった」という。しかも「キャンパスは東京ドームが複数入るほどの広大な敷地。会いに行っても行き違いになることがあった」。そこで、「互いの状況が見えるように」という不便解消のニーズが、インスタントメッセンジャー(IM)開発につながった。
文字だけのやり取りは感情の行き違いを起こしかねないことから、00年には改良版IMの「キャラメッセージ(キャラメ)」を開発。同年4月に起業し「キャラメを公開したら、口コミでユーザーが10万人に広がった」。キャラメでノウハウを蓄積し、国内初の法人向けIM「Yocto(ヨクト)セキュアメッセンジャー」を開発。現在30社が採用している。
もう10年近くIMに絞って作り続けている。「単価が安いからといって海外に発注すれば技術は空洞化する。国内で技術者を育てる必要があるという社会的意義を考えながら、大事に作っている」のだ。
本社も住まいも大阪。「大阪のベンチャーは上場する企業がほとんどなく、モノを作れる企業も少ない」状況。クリプトはそんな大阪発ベンチャー。IMについては「たぶん、うちが一番売っている」と胸を張る。決して口数が多くはないという渡邉社長だが、確固たる自信を内に秘めて、大阪から「世界に通用するソフト」を送り出そうとしている。
プロフィール
渡邉 君人
(わたなべ きみひと)1974年7月生まれ。00年3月有限会社クリプトワンソフト設立(04年4月に株式会社Qriptに商号変更)。00年4月、大阪大学大学院工学研究科 情報システム工学専攻入学。05年に日本初の企業向けインスタントメッセンジャーを発売。現役大学院生起業家として多忙な日々を送る。9月27日にはweb2.0の先駆者が集う「THE NEW CONTEXT CONFERENCE2006」(都ホテル東京)で講演する予定。