『世界で初めて』を実現する--。これが開発者として持ち続ける「夢」という。半導体材料を薄膜化して、異種材料間で接合する「エピフィルムボンディング」という画期的な技術を、世界で初めて実用・量産化した。
「運の良さもあった」というが、「夢」を実現し、言葉に自信がみなぎる。
同社はLED(発光ダイオード)プリンタの最大手、沖データの100%子会社。LEDプリンタは「高速・高精細」で長尺対応にも優れた製品である。しかし、コストと生産効率の面で課題を抱えていた。
2002年1月、同社内にLEDヘッドの低コスト化などを目指す研究プロジェクトが立ち上がった。
いまは10人以上が携わるが、発足時は荻原氏1人の船出。「5-10年先を見越した開発が必要だったが、成功を信じていた」と、相当のプレシャーを感じながらやり遂げた。
新技術の基は、すでに研究レベルで存在した。端的にいうと「剥がして貼る」という技術を応用した。ここに着眼して「これでいける」と信じ続けた。
忘れもしないのが「02年10月17日」。協力者の広島大学研究室で「剥がして貼ったLED薄膜が初めて光った」時は感動したという。この日は、自身の誕生日でもあったところがドラマチックでもある。
通常、半導体間を接続する際には金ワイヤーを使う。この新技術では金ワイヤー数を5分の1までに減らすことができる。「プリンタ用のLEDヘッドの利用にとどまらず、他のLSIにも応用できる」と、この技術が沖電気工業をブレイクスルーさせる可能性が出てきた。
プロフィール
(おぎはら みつひこ)1960年10月、埼玉県さいたま市(旧・浦和市)生まれ、46歳。83年3月、筑波大学第一学群自然学類卒業後、同大学の大学院、物理学研究科へ進み、88年10月に学位取得。89年4月、沖電気工業に入社し、研究開発本部の旧「基盤技術研究所」で「超伝導」の研究に従事。99年10月、沖デジタルイメージングへ設立と同時に転籍。02年1月、LEDの「次世代ヘッド開発プロジェクト」のリーダーに抜擢され、06年6月に開発部長に就任した。