8年前、藤井博之はビジネスオンラインを設立し、会計機能のASPサービスを開発した。「ネットde会計」がそれだ。ASPの可能性に気づき、リスクを承知で資金を投じ、いち早く商品化に取り組んだ人物。ASP/SaaSの草分け的存在だろう。
名もないベンチャーだけに、立ち上げ時の苦労話は数え切れないほど。身売りが頭をよぎったこともある。それでもあきらめず、今では約8万社の中小企業をユーザーとして抱えるに至った。全国商工会連合会の標準サービスに採用されたことで火が付いたのだ。社員は25人で営業担当者とマーケティング担当者はどちらも1人しかいない。それでも、右肩上がりで業績を伸ばす。認められた理由は、ASP形式だったからだ。
「自社開発ソフトを世に出したかったし、中小企業のIT化もサポートしたいと思っていました」
丁寧な言葉遣いだが、「生意気だった頃もあった」。学生の頃から起業意欲が強く、法学部出身の藤井がITを選んだのは「儲かると思った」から。起業直後に始めた受託開発はすぐに軌道に乗り、30歳前後で年収は4000万円ほどにもなった。「遊ぶだけ遊んだ」そうだ。ただ、そうした身分で感じた空虚感が生き方を変えるきっかけに。中小企業のIT事情とベンダーの考えにギャップを覚え、「ネットde会計」の開発を決意した。今は金儲けよりも夢中になれることがあるというわけだ。
弁が立ち、講演依頼も多い。ASP/SaaS普及団体も立ち上げた。最近では経済産業省から助言を求められる立場でもある。
「全世界を網羅する巨大なERPをつくりたい」。そんな途方もない夢を、本気で実現させようとしている。(文中敬称略)
プロフィール
藤井 博之
(ふじい ひろゆき)■1962年4月2日、大阪府大阪市生まれ。■87年3月、立命館大学法学部卒業。コンサルティング会社を経て、90年7月に独立。ソフト開発のウエルズを設立し代表取締役に就任。日本IBMの協力会社として会計ソフトの開発・販売事業を展開する。■00年3月、ビジネスオンラインを設立。代表取締役に就任。大前研一氏などから出資を受け、会計ソフトのASPサービスをリリースする。■著書には「会計ASPカンタン便利の超メリット」(あさ出版)がある。