可能な限りの有給休暇をかき集め、自腹で90日間の語学留学へ。行き先はフィリピン。迷惑をこうむる職場の仲間からは、「TOEICで900点以上を取らなかったら頭を丸める」ことを約束させられた。結果はぎりぎりアウト。丸刈りをするハメとなった。
英語は仕事で使う。「海外のデザイナーとのやり取りなど、英語を必要とする場面が多い。自力で学習していたが、なかなか英語力が身につかず、焦っていた」と、金智之は当時を振り返る。思い立ったら前進あるのみ。丸刈りを経験したとはいえ、日本語のない環境で自分を追い込んだことで、英語力には自信がついた。
金は入社6年目の2011年、UX(User Experience)デザインを研究するチームを立ち上げた。きっかけは、1位を獲得した社内の新規事業募集のコンテスト。その事業は実現しなかったが、調査をしていくなかでUXデザインと出会い、チームを立ち上げることに。社内にデザインの研究部門がなかったことも、追い風となった。UXデザインの最先端は海外。英語力が必要となる。
学生時代はピアニストを目指し、自分を追い込んだ。ピアノ漬けの毎日だったが、「徹夜で弾いていると無の境地になる」ほど楽しんだ。現在でも音楽好きは変わらず、時間をみつけては、インドの打楽器「タブラ」をたたいている。「タブラのたたき方には、ベースとなるものがあまりない。たたきながら自分で解釈していくという感じ。デザインも同じ」。タブラでも無の境地を経験している。金は、それを「右脳と左脳を行ったり来たり」と表現する。脳の役割には諸説あるが、とにかくその感覚が気持ちいいのだという。「“気持ちのいいデザイン”を提供したい」と金。無の境地がヒントになると考えている。(文中敬称略)
プロフィール
金 智之
金 智之(Jiji Kim)
1981年、大阪府出身。2005年、九州芸術工科大学芸術工学府卒業後、NTTコミュニケーションズに入社。コンタクトセンターの運用や映像・音楽配信事業での開発・運用を経て、11年、UXデザインを社内に普及推進するUXデザインスタジオを設立。デザイン戦略立案、事業部門との実践活動、人材育成活動などに携わる。16年、経営企画部デジタル・カイゼン・デザイン室に統合後も引き続き同業務に従事。HCD-net認定人間中心設計専門家。