事業を継続していくため、災害対策をはじめとしたコンピュータシステム導入やネットワークインフラ増強が、企業にとって必須になっている。自然災害だけでなく、この春に猛威を振るった新型インフルエンザなどのパンデミック(汎発性流行)にも対応する必要が生じている。ITベンダーにとっては、「災」を切り口にしたビジネス拡大の兆しが現れてきた。この特集では、「地震」「落雷」「パンデミック」などをテーマとして取り上げ、事業継続に適したITインフラを検証していく。
ディストリが選ぶSMB向け商材 SMB(中堅・中小企業)をユーザー対象とするSIerを販売代理店として確保するディストリビュータでは、事業継続に対応した製品の販売が順調だ。夏季には落雷などへの対策として「UPS(無停電電源装置)」のニーズが高まっているほか、「バックアップソフト」「NAS」などストレージ関連の製品に人気が集中しているという。ディストリビュータの販売動向を通じて、どのメーカーの製品が売れているのかをみてみよう。
UPSやバックアップにニーズ
SMBが求めるメーカー製品は?
UPSはブランド力がカギ 梅雨から夏にかけての季節、全国各地で雷が発生することが多い。落雷の被害によってシステムが停止したりすれば、企業にとって大きなダメージとなる。その対応策として、「UPS」を導入する傾向が強くなっており、なかでも「ローエンドUPS」と呼ばれる実勢価格1万5000~2万円の製品がSMBに人気のようだ。
丸紅インフォテックは、サーバーを核としてUPSとセットで販売代理店のSIerに提供するケースが多いという。高橋慶・執行役員管理部長補佐経営企画部長兼人事総務部長は、「事業継続に適した製品を組み合わせ、ソリューションとして販売する傾向が強い」としている。
ソフトバンクBBでは、SMBが家電量販店などでUPSを購入するケースが多いとみている。コンシューマ販路でのUPS販売は、2009年前半(1~6月)で金額、台数ともに前年同期比10~20%増。保坂敦之・コマース&サービス統括CP事業推進本部MD第1統括部ハードウェアマーケティング1部部長代行は、「コンシューマ市場は、全体で前年割れといわれている。しかし、UPSなど法人でも導入する製品があるので、コンシューマチャネルでの販売は今年後半でも前年並みを確保できる」とみている。
ダイワボウ情報システムでは、UPSの販売台数は増加しているものの、価格下落の影響で売上高が伸び悩む。そこで、「電源を一括管理できる機種などをメーカーに提案することで、単価アップを狙う」(猪狩司・販売推進本部販売推進部長兼マーケティング部長)という方針を示している。
SMBへのUPS提供について、ディストリビュータの共通見解は、ブランド力の強さが売りにつながるということだ。「APCなど大手メーカーの製品がよく売れる」(丸紅インフォテックの高橋執行役員)。事業継続を強化し始めたSMBに対しては、シェアの高い(ブランド力のある)製品が売れ筋になっているようだ。
レプリケーションに人気集中 事業継続に適した製品として、SMBが購入する傾向が高まっている商材として、ディストリビュータは「バックアップ」「NAS」なども挙げている。これは、システムリカバリの需要が増えているためだ。
ソフトバンクBBは、「バックアップソフトの販売本数が伸びている」(友秀貴・コマース&サービス統括CP事業推進本部MD第1統括部エンタープライズサーバー&ストレージ推進部部長)とコメントする。メーカー別では、シマンテック、アクロニス、日本CAが人気のようだ。
ダイワボウ情報システムでは、レプリケーションバックアップの販売に力を入れている。また、「容量が1~2TB(テラバイト)で市場価格が6万円前後のNASがよく売れている」(友部長)という。メーカーではバッファロー、アイ・オー・データ機器を導入するケースが多いようだ。丸紅インフォテックは、現状ではUPSやバックアップソフトの売上比率は低いが、「サーバーと組み合わせて拡大を図る」(高橋執行役員)との考えを示す。
【事業継続計画の背景】
「事業継続計画(BCP)」とは、企業など組織によるリスクマネジメントの一部であり、災害や情報システムのトラブルに対して、事業を形成する業務プロセスや資産を的確に守るための計画を指す。
災害や事故で被害を受けても、重要業務が中断しないことや、仮に中断しても可能な限り短い期間で業務を再開することが企業に求められている。世界同時不況の影響で、IT投資などのコスト削減がユーザー企業の間で叫ばれている状況下にあっても、事業は継続しなければならないという判断から、事業継続関連のシステムやサービスを導入する傾向が高まっている。
具体的には、地震などの災害バックアップシステムなどを活用したディザスタリカバリ(DR=災害復旧)や、在宅勤務システムを導入して新型インフルエンザなどのパンデミックに対応するなど、さまざまな切り口がある。
2008年に中小企業庁が中小企業のBCPの運用指針を策定。こうしたこともあって、SMBでも危機管理の意識が高まりつつある。
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